笑うシミ
投稿者:やおよろず やお (6)
だけど、その塀に近づくにつれ、何かが妙に動いているような、
そしてボソボソと声が聞こえる気がしたんだ。
「こんな夜に子どもか?夜遅くに何してんだ…」
俺は足早に塀の方に向かった。そして気づいたんだ。
それは、人影じゃなかった。
「シミ」だ。
昔、落書きがあった場所を覆い隠すように、巨大なシミが広がっていた。
でも、それはただのシミじゃなかった。
あまりにも人間の形に似ていたんだ。
ニタニタと笑うような、三日月型の目と口が、暗闇の中で白く浮かび上がっていた。
「これを人影と見間違えたのか…?」
とにかく気持ち悪い。酔いもすっかり冷めたし、早く帰ろう…そう思ってその場を離れようとした。その時、
ガクンッ!
急に何かに左足を掴まれた。
体が地面に倒れ込むように引きずり下ろされ、スマホが手から滑り落ちた。
倒れた拍子にスマホのライトが足元を照らす。
そこに、俺は見たんだ。
小さな黒い手が、俺のズボンを掴んでいるのを。
「うわぁぁぁ!!!!」
何が起こっているのかもわからず、恐怖で足をばたつかせ、なんとかその手から逃れようと必死だった。
そして、全力で走った。
いつの間にか、公園の入り口まで来ていた。
泥や枯葉が服にくっついて、転んだ時にできた傷が痛んだ。あの出来事が現実だったと、体が教えてくれる。
深呼吸をして、無理やり自分に言い聞かせた。
「酔ってたせいだ。きっとそうだ。早く帰ろう。明るい道を通って帰ろう。」
俺は、街灯が多い道を選んで、家まで急いだ。
だけど、途中で気づいたんだ。
俺の影、ずっと笑ってるんだよ。あの塀のシミと同じように。
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