だけど、その塀に近づくにつれ、何かが妙に動いているような、
そしてボソボソと声が聞こえる気がしたんだ。
「こんな夜に子どもか?夜遅くに何してんだ…」
俺は足早に塀の方に向かった。そして気づいたんだ。
それは、人影じゃなかった。
「シミ」だ。
昔、落書きがあった場所を覆い隠すように、巨大なシミが広がっていた。
でも、それはただのシミじゃなかった。
あまりにも人間の形に似ていたんだ。
ニタニタと笑うような、三日月型の目と口が、暗闇の中で白く浮かび上がっていた。
「これを人影と見間違えたのか…?」
とにかく気持ち悪い。酔いもすっかり冷めたし、早く帰ろう…そう思ってその場を離れようとした。その時、
ガクンッ!
急に何かに左足を掴まれた。
体が地面に倒れ込むように引きずり下ろされ、スマホが手から滑り落ちた。
倒れた拍子にスマホのライトが足元を照らす。
そこに、俺は見たんだ。
小さな黒い手が、俺のズボンを掴んでいるのを。
「うわぁぁぁ!!!!」
何が起こっているのかもわからず、恐怖で足をばたつかせ、なんとかその手から逃れようと必死だった。
そして、全力で走った。
いつの間にか、公園の入り口まで来ていた。
泥や枯葉が服にくっついて、転んだ時にできた傷が痛んだ。あの出来事が現実だったと、体が教えてくれる。
深呼吸をして、無理やり自分に言い聞かせた。
「酔ってたせいだ。きっとそうだ。早く帰ろう。明るい道を通って帰ろう。」
俺は、街灯が多い道を選んで、家まで急いだ。
だけど、途中で気づいたんだ。
俺の影、ずっと笑ってるんだよ。あの塀のシミと同じように。























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