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不思議体験

HPMPラブクラフトさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

失墜の放火魔
長編 2024/07/09 02:05 5,520view
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「正反対…?どういうこと?」
控えめにはははと笑うあまやくんは、悲しそうな目で私を見た。
「そろそろ話していいかな」一瞬ためを作ってから、彼は言った。
「僕ね、いじめられてるんだ」
そんな馬鹿な!そんなわけがない!こんなゆるふわボーイがいじめられてる!?もうすでに地球は終わってるんじゃないか。そんなこんなが頭を巡った。
「いじめってどんな?」
ばかか!私おい!何聞いてんだよ!突っ込む話じゃないだろ!
「悪口を書かれた手紙が引き出しに入ってたり、悪口を言われたりかな…」
お前は私か!
「でも仕方ないんだ。僕はほら、髪の色がこんなでしょ?生まれつきなんだけど、お前だけひいきだって言われて…」
なんだ。ちゃんとした理由があるのか。でも高校生ってちっちゃいな。髪の色が違うだけでいじめちゃうのか。
「天谷くんも大変なんだね」

私がしみじみと頷くと、天谷くんは首をかしげて不思議そうな顔をしていった。
「天谷くん…も?」
しまったああ!私は心の中で叫んだ。だが慌てはしない。君と話すうちに嘘だけは誇れるほど上達したんだ
「ある意味人気者だからさ。天谷くんも」
私は悲しい笑顔を作って誤魔化すように言った。いじめを人気者と表現した私はただのクズだが、そんなクズの発言にも天谷くんはふわっと笑ってくれる。
「でも最近はね、どんなに辛いことがあっても頑張れるんだ。桃花さんがいるから」
はいアウトー。その発言はアウトだよ天谷くん。恋しちゃうよー。ていうかそれ私のセリフだよー。もう二人でここで暮らそう。そうしよう。
「桃花さん?」
「あ、うん?なに」
いかんいかん。正気を保て私。
「時間だから帰るね?」
もう帰っちゃうのか。

「うん。気をつけてね」
さよなら夢の時間。おかえり現実。
「またね」
「うん。またね」
天谷くんが図書館から出て行った。それにしても天谷くんがいじめにあってるなんて。最悪な考えだけど、心なしか嬉しかった。自分とはかけ離れた境遇の子だ思っていた人が、実は同じ境遇だったなんて。

時計は17時を回った。そろそろ家に帰らないといけない。私は一冊本を借りて図書館を後にした。
家路は以外と綺麗なものが多い。最近できた公園とか、綺麗に舗装された道路とか、タイルの街路とか。割と新しいものが多くて、新鮮な気持ちになる。このギャップというか、落差というか、普段汚いものばかり見ているせいなのか、ちょっとした輝きを放つ綺麗な部分がすごく美しいと思う。
家に帰ったら、母の喘ぎ声が響いていた。案の定仲直りセックスの真っ最中だった。親から私はこう学ぶ。セックスは仲直りのための行為。本当は違うってことはわかってるけど、育った環境がそう思わせるんだろう。聞きたくないその声を無視して、自分の部屋に戻ると、いつもの虚無感が押し寄せてきた。なんで生きてるんだろう。私は何が楽しくて今この世界にいるんだろう。答えはいつも一緒だ。惰性。死への恐怖。縋る人の存在。
『疲れた。死のう』
私はそれができる人じゃない。生きるのは辛いけど、死ぬのも辛い。どうしようもない我儘だと言われたらそれでおしまいだけど、普通ならそうなんだろうと私は思う。死にたいときに死ねる人は、多分色んな意味で特殊なんだ。
はぁっとため息をついてベッドに横たわった。お風呂に入って寝ようかなって考えながら、借りてきた本を読もうかと手に取ったが、結局は読まなかった。私にとって本当は暇つぶしでしかないのだ。
しかしながら本から学ぶことは多かった。むしろ本から学ぶことの方が多かった。世間は何も教えてくれない。教えてくれるのは汚いものばかりだ。でも本は違う。それなりに選びさえすればほどよく美化されていて尚且つわかりやすい。
その本たちの中でも私がよく読むのは“犯罪者の心理”という本。
美化もクソもない、汚い現実部分が事細かに記してあり、分析までしてある。この本を読んでいるだけでその時の臨場感や情景が浮かんでくる。その本を読みながら私は初めて自慰行為を覚えた。ゾクゾクと疼く衝動に耐えられなかった。私は生粋のサイコパスだった。なかなか寝付けない夜ほど犯罪者たちの犯行思考を想像しながら自慰に耽った。今日もまさにそんな夜だった。

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コメント(1)
  • 気持ちの言語化が素晴らしいです

    2024/07/09/16:36

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