女性タクシー運転手 片桐舞子の受難
投稿者:とくのしん (65)
「そういえば、前も姉さんに乗せてもろうたの?」
会話の途中、男が以前乗車したことを尋ねてきた。返答に困った片桐だが、ここは正直に答えることにした。
「・・・え、えぇ。お客さんのことはよく覚えていますよ。確か観光でこちらにいらしたとか」
「おお、やっぱりあのときの姉さんやったか」
男は身を乗り出して上機嫌に会話を続ける。
「毎度毎度、こんな時間に〇〇の滝まで送り届けてもろうてほんま助かりますわ」
「いえ・・・こちらもご贔屓にしていただいて感謝しています」
「いや~奇遇なこともあるもんやな。3回とも姉さんのタクシーに乗るなんてな」
慎重に言葉を選びながら受け答えしていた片桐に、男は低い声で次の言葉を投げかけてきた。
「・・・姉さん、3度も自殺する男を運ぶっちゅうのはどないな心境や?」
不敵な・・・いや不気味な表情を浮かべた男とルームミラー越しに目が合う。
片桐は返答に困ったというより恐ろしさから声が出ず、ハンドルをただ握りしめていた。しばし、間をおいたあとその問いに返答した。
「お、お客さん。悪い冗談はやめてくださいよ。もし・・・もし本当にお亡くなりになられていたら、私のタクシーに乗るなんてできないじゃないですか。それともお客さんは本当に幽霊とでも?」
その返答に男は真顔になり、しばし沈黙した。
「フ・・・フフフ!フへへへへへ!」
男は下卑た声で笑いだした。
「すまんすまん!姉さん、堪忍してや!ちょっと驚かそう思うて冗談言うてしもうたわ。ほんま許してや」
男はそう言うと少し神妙な面持ちになった。
「ワシ、死に場所を求めてあちらこちら行ってんねん。〇〇の滝もその一つや。実は昔、別れた女房とここに一度だけ来てな。女房がえらく気に入った場所やったんで、ここなら死ねる思うたんやけど・・・」
男は一呼吸置いて言葉を続ける。
「せやけどなかなかあの世に行けんもんやな。まだこの世に未練があるっちゅうんかな」
その言葉を男が口にしたとき、ちょうど目的地に到着した。
1万円を受け取り、片桐が精算をしようとすると
「釣りはいらんねん。少ないチップやけど貰ってや」
そう言って降りる男に片桐は声をかけた。
「お客さん、生きていればいつかいいことありますよ」
その言葉を聞いて男はぴたっと立ち止まった。そして
「ギャハハハハハハハハハハハハ!」
あか
もうこの世にいない人とわかってて3回も乗せる片桐舞子さん、怖すぎる。拒否れよ。
一万円札は本物だったのかな?
とふと気になりました。