飯酒盃(いさはい)という苗字の男
投稿者:ねこじろう (157)
そう言って毒島は胸ポケットから一枚の写真を出すと、飯酒盃に手渡す。
手に取り目前にかざした飯酒盃の顔色がみるみる変わっていく。そして震える声で毒島に尋ねた。
「あ、、あんた、この写真、どうしたんだ?」
「今からちょうど1年前。
市内にあるマンションの一室で40歳のある独身女性が首吊り自殺をしました。
たまたま私はその実況検分に立ち会ったんです。
まれに事件の場合もありますんでね。
遺書が残されていて、そこには彼女が長らく勤めていた会社の上司に対する恨み辛みが延々と書かれていたんです。
つまり女性はその上司と長きに渡り不倫関係にあったみたいです。
上司はいずれ妻と別れて一緒になると言ってズルズル関係を続けていました。
その間彼女は二度も赤ちゃんを下ろしてます。
でも最終的に彼女は上司に保身のため捨てられます。
それで悲観に暮れた女性は自ら命を絶ちました。
その女性の名前は飯酒盃尚美。
その写真の女性です。
あなたの一人娘でしたよね。
そしてその上司の名前は古市明。
そう、あなたがこの間ご自分の車で跳ね殺した男です」
飯酒盃は険しい顔で俯いたままだ。
毒島は続けた。
「いやあ、あなたの名前が珍しいものではなかったら、さすがの私もそのまま見逃すところでしたよ。
この間馴染みの店で飲んでいるとたまたまあの死亡事故のニュースが流れましてね。
その途中あなたの名前を聴いた時思わずテレビの画面に釘付けになり、その中身にさらに驚かされました。
だって被害者はかつて自殺した独身女性を捨てた直属の上司であり、加害者はその女性の父親でしたからね。
こんな偶然とかあります?
正に宝くじにも当たるくらいの確率ですよね。
それでもやはりあなたはこれは単なる運転ミスによる事故と言い張るつもりですか?
ねぇ飯酒盃さん」
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