誰そ彼(たそがれ)
投稿者:ねこじろう (147)
長編
2024/03/23
15:01
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今年五十になるTの半生は孤独そのものだった。
※※※※※※※※※※
彼には兄弟がなくまた親戚との交流もなく、唯一の肉親だった母親も去年病気で亡くなった。
縁に恵まれなかったのか、独身で付き合っている女性もいなかった。
彼には若い頃から、これといった人生の夢や目的というのがない。
大学を卒業後地元の小さな会社に就職し総務課に配属されて30年。
特に出世もせず今日まで来た。
朝から地下鉄で会社に行きパソコンの前でおおよそ9時間過ごし、また家に帰る。
そんな単調な毎日をただただ繰り返してきた。
※※※※※※※※※※
それは暑い夏が終わり、ようやく日差しにも穏やかさが感じられだした頃のこと。
仕事を終えたTはいつもの通り地下鉄のホームで、いつもの19時18分の電車を待っていた。
─電車が通過します、、、
危険ですので白線の内側にお下がりください。
アナウンスが鳴り響くと同時に規則的で単調な電車の音が近づいてくる。
ゴトンゴトン、、、ゴトンゴトン、、、
ホームの端辺りに立っていたTは白線の内側まで下がると改めて正面に向き直り、俯いていた顔を上げた。
その時だ。
正面の視界に広がる向かいの薄暗いホーム。
その中央辺りに明らかに周囲の光景から隔絶された三人がポツンと立っていた。
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タイトルが秀逸
コメントありがとうございます。
─ねこじろう
物悲しい話。
やっぱり温かい家庭っていいな。
長期間孤独に身を置くと幻覚まで見えるようになるのかもね。
ぽっぽや見た時と近い感情になった
暖かみがあると感じさせつつさり気なく救いのない、いや救われる? いや、なんだろう.やはり救いのない、だからこその不条理系怪談、ということなのかな。
コメントありがとうございます。
─ねこじろう