防災無線
投稿者:とくのしん (65)
高輝度の懐中電灯の明かりがどこを照らしても、照らしたところに人の気配はない。霊などいないと断言していた先輩の表情はかなり強張っていた。
防災無線は尚も続く。
《先程・・・お知らせしました・・・行方不明者ですが・・・無事・・・死亡が確認されました・・・。謹んで・・・お悔やみ申し上げます・・・。繰り返し・・・お知らせいたします・・・。先程・・・お知らせしました・・・行方不明者ですが・・・》
防災無線から流れる自分たちの死亡報告に理解が追い付かない。もう自分たちは死んでいるのか、それともこれから死ぬのか、皆目見当もつかない状況に混乱しながらも、一刻も早くこの場から逃げるしかないと、釣り道具を早々に片づけて岸から離れることにした。
防災無線から《ポクポクポク・・・》と木魚の音に混じりお経が聞こえ、《チーン》とご丁寧にりんの音までが流れている。こんな出来過ぎたシチュエーション、悪戯にしてはあまりにも手が込んでいる。夢か現実か、それすらわからなくなるほどこのオカルトじみた状況に、思考回路はショート寸前に陥っていた。
息も絶え絶えになりながらやっと駐車場に辿り着く。トランクに荷物を乱雑に放り込むと、急ぎ運転席と助手席のドアを開ける。同時に再び防災無線から男の声がした。
《またの・・・お越しを・・・お待ちしております》
先輩は無言のまま車を急発進させた。
「あの悪戯には参ったよな」
週明け、顔を合わせた先輩が苦笑いしながら週末の出来事を口にした。
「でも先輩、あのあと調べてみたんですけど、あのあたり集落的なものはないですよ」
俺の一言に先輩は黙る。
「それにあの貯水池に管理事務所みたいなものもなかったじゃないですか。となるとあそこに防災無線はないと思うんですよね。まぁあったとしてもあの時間は無人だと思うし、仮に人がいてもそんな悪戯しないと思いますが・・・」
「いやー、でも悪戯だと思うぞ!そう悪戯だって!あはははは!」
笑って誤魔化す先輩の口元は思い切り引きつっていた。
俺も先輩も今のところ実害はない。
実害はないが、先輩は金輪際夜釣りには行かないそうだ。
これは怖い。設定がいい。
文章がうまい。
突然のセーラームーンやめろ
素晴らしいです。
みなさんの投票で大賞受賞できました。
今回で9本目の大賞受賞作品なので、節目の10本目を目指して今月も投稿します。
宜しくお願い致します。