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ヒトコワ

バクシマさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

入れ歯
短編 2024/02/03 12:32 2,570view
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ミサトさんは看護師で、いわゆる町医者に務めていました。
ところがある頃から、彼女の退勤時間にあわせて、診療所のまえに変なお婆さんが現れるようになりました。
しかも、そのお婆さんはミサトさんに執拗に話しかけてくるのでした。
同僚のアヤさんは、度々ミサトさんからそのお婆さんについての相談を受けていました。
「で、そのお婆さんは、ミサトちゃんにどんな話をしてくるの?」
「それがねえ、なにいってるのかさっぱりなのよ?なんか、娘がなんたら、ってのは聞きとれたんだけど、よくわからないの」
「へえ、なんか不気味ね。そのお婆さんってどこの誰なんだろうね?」
「それがね、院長にも相談したら、うちの患者らしいのよ。しかも認知症なんだって」
「ああ、なるほどねえ。それでわけわかんなくなって、ミサトちゃんに話しかけてんのかもね」

それから何日か経った日のこと
ミサトさんが退勤するとき、またしても診療所の前に例のお婆さんが待ち構えていました。
今日は、ミサトさんが彼氏と一緒にディナーをする日です。
ミサトさんはアヤさんに相談しました。すると
「じゃあ、私があのお婆さんを引きつけておくから、その隙にミサトちゃんは診療所を抜け出しちゃいなよ」
かくして、この提案は功を奏し、無事にミサさんは、お婆さんにきづかれることなことなく診療所を抜け出し、駅へと向かうことができました。
一方、アヤさんの方はといえば
「あんたは誰だい?いつもここを通る女はいつ病院を出てくるんだい?」
「お婆さんごめんなさいね。彼女はもう駅に着いている頃よ」
するとお婆さんは狼狽しました。
「なんてことを・・・これではあの女も、わしの娘と同じ目にあってしまう・・・」
「お婆さん、何を訳の分からないことを言っているの?折角だから言っちゃうけどね。彼女も迷惑してるのよ。自分が認知症になっていることを自覚しないと、御家族も苦労するわよ」
かなり、きつい言い方であったが、どこかで誰かがブレーキを踏まないと、こういう人は暴走してしまうというのがアヤさんの持論であった。
しかし
「・・・わしはあの女自体には興味はないわい。
あの女の背中についている、黒い影に用があるのじゃ」

「・・・なにを言っているの?」
アヤさんは、困惑してきた。
確かに変なことを言っているお婆さんだ。しかし、会話の受け答えはまともである。
「・・あの女の背中についている黒い影は、以前わしの娘に取りついておった。
・・・そして娘はおかしくなり、やがて自らを死に追いやったのよ」
「え、なにそれ・・・」
「あの女には、わしがボケているように見えてたのか。それも仕方ないのかもしれんな。わしはあの女と話していた時間の大半を,除霊の呪文に費やしたのじゃからな。
それに入れ歯が合っとらんかった」
この話を聞いて、アヤさんは背筋が寒くなった。
ミサトさんは大丈夫なのか・・・
その場でミサトさんの携帯に電話をかける。
電話はすぐにつながった。
「もしもしミサトちゃん!?大丈夫?」
アヤさんの切迫した声とは対照的に、電話口からは呑気な声が返ってきた。
「あれ〜?アヤちゃんどうしたの?」
「今どこ!?大丈夫なの?」
「なにが〜?いま電車に乗ってるけどなんかあったの?」
「・・・いや、なんでもないわ。
ところで、ごめんだけど、前に見せてくれた彼氏さんの写真を私の携帯に送ってもらっても良い?」
「え?別に良いよ。・・・はい、送ったよー」
「ありがとう。いったん切るね。」
アヤさんは電話を切ると、いま送られてきたミサトさんの彼氏の写真を老婆に見せた。
以前、一時的ではあるが、ミサトさんは彼氏から暴力を受けたことがあった。
それで、アヤさんは影の正体が彼氏の生霊なのではと思ったのだった。
しかし、老婆は顔を横に振る。

「こいつじゃないわい。あの影の奴めは、もっと醜悪じゃ」
「ねえ、その影の正体ってなんなの?」
老婆は、溜息をつくと、ギロリとアヤさんの目を睨みつけた。
「こいつじゃよ」
老婆は診療所の看板を指差した。
・・・正確には、院長先生の顔写真を指差していた。
そのとき、他の同僚たちが診療所から出てきた。
「あれー、アヤちゃんじゃない。どうしたの?」
「みなさん、お疲れ様です。」
「アヤちゃん、忘れ物でもしたの?だったら鍵渡すから施錠お願いね。」
「あれ?いつも院長先生が施錠してませんでしたっけ?」
「それがねー。なんか院長先生、急用があるとかで、さっさと帰っちゃったの。」
それを聞いた老婆はうなだれた。そして
「遅かったかの・・・」
と漏らした。
アヤさんは、すぐにミサトさんに電話し直す。
電話は繋がった。
「あ、もしもしミサトちゃん?今どこ」
「何度も、なにー?今は駅のホームで乗換えの電車を待っ・・・」
・・声が途切れた。
「ミサトちゃん!?大丈夫!?」
「「「・・・うわあああああ!!!!」」」
電話の向こうから叫び声が聞こえる。ただしそれは、群衆の悲鳴であった。
・・・翌日、朝刊に電車の人身事故の記事が載った。
記事には男女の無理心中と書かれていた。
1人はミサトさん、もう1人は院長先生だった。

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コメント(2)
  • あなた、もしかしてシンジ君じゃ!?

    2024/02/03/13:55
  • うわっ((( ;゚Д゚)))

    2024/02/07/15:33

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