適切な処置
投稿者:ねこじろう (147)
─俺は今、どこにいるんだ?
瞼は開いているのだが、何かに遮られて何も見えない。
どうやら、顔を何かでぐるぐる巻きにされているみたいだ。
口にはマスクをはめられ、体のあちこちには管を繋げられているようだ。
ピーピーという無機質な信号音と、カチリカチリという時計の音だけが微かに聞こえてくる。
─どこかの病棟の一室なのか?
起き上がろうと両手両足を動かそうとするが、全くどうにもならない。
というか手足の感覚がないのだ。
もしかしたら、、、
一気に絶望的な気分に陥る。
─いったいどうしてこんなことになったんだ?
何か大きな事故に巻き込まれたのか?
俺は必死に記憶を辿ってみた。
すると断片的ではあるが瞼の裏に、まるで古い映画の一コマを観ているかのようにセピアカラーの映像が動き出す。
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暗い闇の中に煌めく無数の光。
─そうだ、これは夜空だ、星空だ。
俺はワイングラスを片手に、ベランダに立っていた。
隣には、妻の明子が鮮やかな真紅のシルクのドレス姿で微笑んでいる。
─そう、確かその日は結婚1周年の記念日。
リビングで食事を終えた俺たちは、マンションベランダに出て赤ワインの入ったグラスで乾杯をしたんだ。
カチンという心地よい音が響く。
明子が潤んだ美しい瞳で俺を見つめ微笑む。
ダークレッドの液体を一気に体内に流し込むと、秋を感じさせる風がサッと額を掠めた。
二人並び階下の景色を眺める。
月に照らされうっすら彼方に見える山の端。
碁盤の目のように縦横に走る大小の道。
そこを流れる車のサーチライト。
立ち並ぶビルのイルミネーションと住宅の暖かい灯り。
人生の幸せな一コマ。
本当に文章がお上手で目が離せなくました。
ありがとうございます
─ねこじろう