田中くん
投稿者:泥沼 (2)
「で、その田中がどうしたんだよ?」
誰かが訊ねると、Aは言った。
「いや……変な話なんだけどさ、最近見たんだよ」
「ふぅ〜ん。どこで見たんだよ?」
「学校だよ。オレたちが通っていた○△小学校」
「へぇ〜。ってことは、今、教師でもやってるの?」
「いや……夢の中で見たんだよ、田中をさ」
夢の中で見た。
その発言に、僕を含めて全員で笑ってしまった。
何を言い出すかと思えば、夢の中で見たかと。
酒が酔いすぎて変なことを言ってるなと思った。
「でさ、昔と変わらない姿のアイツが言うんだよ」
Aは全員の顔を見回しながら。
「ねぇ、みんなで鬼ごっこしようよってさ」
僕たちは田中くんと鬼ごっこをして遊んでいました。
田中くんが鬼でスタートし、誰かをタッチしてもその場で十秒数えたあとに、また田中くんが鬼で再開する鬼ごっこ。
別名——田中鬼ごっこを。
「田中鬼ごっこ。あったなぁ〜、マジで」
懐かしい単語に、笑いが起きた。
そして、誰かがまた言いました。
「アレってさ、お前が考えたんじゃなかったっけ?」
僕へと話が回ってきて、素直に頷いた。
田中鬼ごっこを発明したのは僕だった。
当時僕たちのクラスは荒れ、その一番の被害者だった田中くんへは日常茶飯事で暴力が振るわれていたのだ。
この状況は見てて、胸糞が悪く、田中くんを庇うつもりで言ったのだ。田中鬼ごっこをしようぜと。
物珍しいものには何でも興味が湧く小学生。
思惑通りに全員が動き、田中鬼ごっこが始まった。
理不尽に暴力を振るわれるよりも追いかけるだけで許されるほうがマシだと、僕は判断したのだ。
「いやいや、お前らオレの話を聞けよ。最後までさ」
Aは怒り気味に言い、酒を飲んでから。
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