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呪い・祟り

泥沼さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

田中くん
長編 2023/12/05 13:25 10,398view
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「オレはさ、やらないと言うんだが、アイツは10、9、8、7——っと、数を数え始めるんだよ。で、数え終わると、追いかけてくるんだよ。必死にさ、顔面に笑みを溢れさせてさ」

 必死に語るAに申し訳ないが、笑いが止まりません。
 そんなユーモアな夢を見ているのかと。
 いい年過ぎたおっさんが何を怖がっているのかと。

「笑い事じゃねぇーんだよ!! お前らぁ!?」

 Aは叫んだ。拳を床へと叩きつけます。
 料理が乗ったテーブルが、ドンっと大きく揺れました。

「毎日毎日アイツが夢の中に現れて、昼休み終わりのチャイムが鳴るまで……オレはずっと逃げてるんだよ、アイツからさ」

 お調子者だったAには思えないほどに焦燥していました。
 頭をクシャクシャと掻き荒らしながらも。

「……同窓会ならアイツに会えると思ってたのに」

 そしたらさ、と静かな声で続けて。

「もう追いかけないでって言えるのになぁ」
「別に捕まっても大丈夫だろ? 田中鬼ごっこだろ?」

 田中鬼ごっこ通りのルールならば。
 Aが捕まえられたところで、田中が十秒数えるだけ。
 それならば、Aがわざわざ怖い目に遭うはずはないのですが。

「……捕まったらヤベェー気がするんだよ。肌感覚で分かるんだよ。夢の中でアイツに捕まったら……オレは死ぬってさ」

 夢の中で始まる鬼ごっこ。
 捕まったら死ぬなんて、ファンタジーの世界です。

「笑っていられるのも今のうちだからな!! お前らだって……オレの立場になったら……分かるよ、絶対にさ」

 僕たちはAの話に馬鹿笑いしていたのですが……。

 三ヶ月後、Aが亡くなったと連絡がありました。
 心筋梗塞が原因だと聞き、お通夜だけ参加しました。
 妻子を残して一人若くして死んだA。
 同窓会振りの仲間たちと顔を見合わせます。
 式は無事に終わり、帰ることになりました。

「田中に捕まったのかな……?」

 場を和ますために、誰かが言いました。
 それに釣られるように、他の誰かも返します。

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