田中くん
投稿者:泥沼 (2)
小学校の同窓会が開かれた。
久々に会った同級生は当時とは大違い。
ただ、全員根本的な部分は変わらないようだ。
昔話に花を咲かせ、酒を浴びるように飲んだ。
宴会も終盤に差し掛かった頃。
「田中って覚えてるか?」
お調子者のAが言った。
会場内の誰もが「誰だっけ?」という話になる。
でも、全員が思い当たる節があるようで頭を悩ませる。
そんな中、また誰かが言う。
「児童養護施設育ちだっけ?」
その単語を聞き、僕は彼を完全に思い出していた。
小学校六年生の五月下旬頃、転校生が学校に来た。
背が低く大人しそうな少年、それが田中くんだった。
県外から引っ越してきたらしく、現在は最寄りの児童養護施設に預けられているということを自己紹介で語っていた。
「あぁ〜覚えてる覚えてる。アイツな、アイツ」
また誰かが言うと、周りの奴等も徐々に思い出してきたようだ。次から次へと小馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。
無理もない話だ。
だって、彼等にとって——。
田中くんはイジメの標的だったのだから。
小学生はときに残酷な生き物である。
児童養護施設育ちで、口が臭い。
おまけに大人しい癖に、全く勉強ができない。
それだけの理由があれば——。
イジメても問題ないと判断してしまうのだから。
罵倒するのは当たり前。
ムカついたら殴ってもいいクラス全員のサンドバッグ。
誰もが田中くんに対して酷いことをしていた。
でも、教室内で作られた暗黙の了解には逆らえない。
もしも破ってしまったら、次の標的は自分になるから。
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