押入れの腕
投稿者:綿貫 一 (31)
家の外では、雨が強く降っていた。
僕らは昼間なのに薄暗い家の中をあちこちと歩き回った。
襖をあけると、神棚のある和室だった。
この部屋はK君の両親に「子供は入ってはいけないよ」と注意されている場所だった。
その押入れに目が留まった。
僕と妹は押入れの襖を開けると、中にそれほど物が入っていないことを確認して、中板で上下に分かれたうちの下のスペースに潜り込んだ。
襖を閉めると中は漆黒の闇に包まれた。
自分の手すら、闇に慣れていない目には見えなかった。
押入れの奥にいる妹が怖がったので、わずかに襖をあけて、少しだけ明かりを差し入れた。
妹の安心した顔が見える。
「もーいーよ」
K君が家の中を探し回る足音がする。
僕は、背後でクスクス笑う妹にシーっとジェスチャーを送ったが、逆光で彼女には見えていなかったかもしれない。
その後、しばらく息をひそめていたが、K君はこの押入れの襖を開けるどころか、神棚の部屋に入ってくることさえなかった。
緊張感の糸が切れかかっていた、その時。
「うわっ!」
突然、背後から首筋にナニカが巻き付き、すごい力で締め上げ始めた。
不意のことで、心臓の鼓動が跳ね上がり、身体の筋肉が硬直する。
慌てながらも視線を首元に移すと、襖から差し込む微かな光の中に、細くて白い腕が見えた。
背後にいる妹の腕だった。
おどかすなよ。
振り返ってそう言おうと思ったが、冗談にしては妹の腕が僕の首を締め上げてくる、その力が尋常でない。
妹が、なにかおかしい――。
押入れの中で身体を屈めた状態のまま、妹の腕をなんとか押し広げ、四苦八苦しながら背後を振り返る。
そこには、恐怖に目を見開いた妹の顔があった。
彼女の首筋と口元には「腕」がまきついていた。
その太い――大人の男性のものに見える腕は、妹の背後の暗闇からぬっと伸びていた。
妹は口をふさがれ声も出せず、腕を伸ばして僕に助けを求めていたのだ。
僕を掴んだ腕の異常な力強さは、彼女の必死さの証だった。
僕はその太い腕にとりついて、引きはがそうと力をこめる。
だが、大蛇のごとき腕は幼い身体にまきついて、びくともしなかった。
熱を感じない、まさに蛇のような腕だった。
闇から伸びる太い腕。
K君を使って何だったか探ろうとしたんですかね・・・?ガクガクブルブル