犬の散歩
投稿者:ねこじろう (147)
「こいつはね、娘が学校帰りにガード下から拾ってきたんですよ。
初めのうちは私も妻も大反対していたんですよ。
どうせ途中でほったらかすんだろうってね。
だけど毎日一生懸命面倒を見ている娘の姿を見ていたら、私も放っておけなくなってね。
あっという間に十五年。
こんな雑種でも現在は大切な家族の一員です。
ただ今では餌やりも散歩も私の仕事になってしまったんですけどね。
ハハハハハ、、、」
と笑いながら男は愛おしそうに目を細め足元をみているのだが、そこには、やはり何もいない。
「あの……」
私が思い切って聞こうとすると、
「最近は妻も娘も冷たくてねえ。
情けないことに私の相手してくれるのは、こいつくらいなもんですわ。
ハハハハ、、、」
と男はさも楽しげに笑っていたが、その表情は突然青ざめたものに変わった。
そしていかにも焦った様子で、
「おっと、いかんいかん、もう帰らんと。
朝食の準備に部屋の掃除洗濯それから買い物。
ああ忙しい忙しい、パッパとてきぱきやらんと妻や娘に殺されちゃうよ」
と言いながら首に巻いたタオルで額を拭く姿を目にした途端、私はハッと息を飲んだ。
男の首には黒い革の首輪がされており、その真ん中辺りには「ゆうじ」と刻印されたネームプレートが付けられている。
男は再びタオルを首に巻くと、
「それじゃあ、またいつか会いましょう!」
と言い残し、また元気に走り出した。
右手に持った紐をズルズル引きずりながら、、、
【了】
愛犬の幽霊かと思いきや、、、ゾッとした。
大切な愛犬を亡くして…という感じかと想像したけど違いましたね。怖いです…
コメントありがとうございます。
─ねこじろう