翌日、先輩は出社しなかった。
家に帰る途中、何者かに襲われてナイフで刺されたらしい。
幸い命は助かったが、2週間も入院することになってしまった。
僕はYさんとしか思えなかった。ただ、証拠なんてあるわけもないし、Yさんは翌日普通に出社していた。僕は先輩のお見舞いに行き、事実を確かめる事にした。
先輩は顔や腕に傷を負ったらしく、包帯やガーゼだらけの姿はとても痛々しかった。
「先輩、お見舞いにきました。」
「ありがとう。見た目はすごいけど、傷はそんなに深くないからね。」
「それで、犯人はまだ捕まってないんですね。」
「うん、正面から攻撃を防いだから格好はけっこう見たんだけど、すごい横に広い奴だったよ。顔はマスクで見えなかった。」
「じゃあYさんではないのか…」
「確かに嫌なタイミングだけど、襲ってきたのは絶対にYさんじゃないね。」
少しほっとすると同時に、また不安になった。そんな通り魔が未だに野放しになっているのか。
しかし、先輩が助かって本当によかった。
翌日出社すると、Yさんが先輩の席に座って僕を待っていた。
「そこ、先輩の席ですよ。」
「うん、分かってますよぉ。」
なんなんだこいつ。
その後、いつものように話をされ、うんざりしていた私は同僚に目線で助けを求めた。
どうやら伝わったらしく、仕事の口実で席に呼び出してくれた。
少し話してからすぐ男子トイレに向かい、私は同僚にボヤいた。
「本当にしんどいんだが。」
「いいじゃん、モテ男め。」
「お前彼女いなかったろ?Yさんも彼氏いないらしいから紹介しようか?」
「マジでやめてくれ!」
馬鹿みたいな話をしているうちに気分もずいぶんマシになり、私は礼を言って自分の席に戻った。その日はYさんから話しかけられる事もなく、平穏な一日だった。
翌日、同僚は出社しなかった。
絶対にYが何かしたに違いない。
そう確信した私は、廊下でYを問い詰めた。
「同僚に何をしたんですか。先輩の件もあなたに関係ありますよね。」
「急にどうしたんですかぁ?私は全然知らないんですけど、同僚さんも通り魔に刺されたみたいですよぉ。」
「なんでそんな事知ってるんですか。」
「噂になってますしぃ。」
だめだ。こいつと話しても時間の無駄だ。
私は同僚に電話した。
「もしもし?」
よかった。同僚が出てくれた。
「おい、大丈夫なのか?」
「あぁ、昨日急に襲われてな。」
「ケガはないのか?」
「ちょっと斬られたけど、蹴りを入れたら立ち去ったよ。警察呼んだら事情聴取されまくってさぁ。寝られてないから休んだんだ。」
「本当によかった。」
「明日からは普通に出勤するぞ。」
いよいよ放置はできない状況になってしまった。私は意を決して、再びYに話しかけた。
「おい。いい加減にしやがれクソ野郎。」
「はぁ?」
「同僚がお前の仲間に蹴りを入れてやったらしいぞ。そのうち警察も来るだろうな。」
「だからぁ、なんなんですぅ?」
「今日は俺を襲ってこい。返り討ちにしてやるって仲間に伝えろ。あとお前は死ね。」
Yは黙ったままこちらを睨んできた。
どうやら煽りはうまくいったようだ。
私は何人かの友人に連絡し、定時までとりあえず仕事をする事にした。
そんな煽りで律儀に襲ってきてくれるのか…
当初の目的を見失いすぎだろ
完全にバレてて死ねって言われたら当初の目的も見失うだろうwでもどちらにしても同じ会社の人間が立て続けに被害に遭ったらその線で捜査はするだろうし、遅かれ早かれ犯人にはたどり着いたろうね。