まろーど祭り

母方の祖母の村では、毎年夏になると変わったお祭りが行われていました。
村人達が柱を囲み、演奏にあわせて踊るというもので、内容としては大したものではありません。ただ、まろーど様と呼ばれる神様に選ばれた村人だけが、この世の物とは思えないほど激しい踊りをし始め、その村人は今後10年とても幸せに過ごせるそうです。
毎年選ばれる村人は決まっていて、10歳、20歳、30歳というように10の年を重ねた者に限られており、狭く小さい村ですので毎年一人か二人しか該当者がいませんでした。そのため、村ではまろーど様に失礼のないよう、選ばれる予定の村人に準備をさせるようにしていました。

とある夏、村の過疎化が進んでいるせいか、困ったことに村人の中で10の年を重ねた者がいませんでした。
このままでは祭りができないため、基本的には村人しか参加できない行事ですが、今年丁度20歳の従姉妹が特別に参加する事になりました。
選ばれる予定の者には前日から厳しい物忌が課せられます。祭りの夜まで歌ってはならない、肉を食べてはならない、血を出してはならない、服を汚してはならない、他にも色々とありましたが、この四つは特に重要とされていました。

さて、祭りに選ばれた従姉妹ですが、全く乗り気ではないようでした。
訳の分からない祭りのために、肉を食べられないし歌えないなんてありえない！
と大変に不服そうです。
白ご飯にサラダ、味噌汁だけの夕飯を出されると怒り狂って部屋に篭ってしまいました。

後からこっそり部屋を覗いてみると、YouTubeで音楽をかけ、歌いながら踊っていました。机の上にはチューハイの缶にビーフジャーキーの袋が置いてありました。
やりたい放題だな…と思いつつも従姉妹なりの精一杯の抵抗をしているんだなと、微笑ましく思い、何も言いませんでした。

お祭りの夜になりました。村の中央にある広場で行われるため、ぞろぞろと白装束の村人が集まっていきます。
私と従姉妹は祖母の少し後で出発し、慣れない暗い道をライトで照らしながら歩いていきました。
その時、従姉妹は石につまづいて転んでしまいました。どうやら膝を擦りむき、血が出てしまったようです。
まずいんじゃない、と言いましたが、従姉妹は私に向かってウインクをし、白装束の裾で血を拭ってから何事も無かったかのように広場へ向かいました。

広場はすっかり準備が整っていました。
中央に巨大な白い柱が設置され、周りには色々な御供物が置かれています。
白装束を着た村人達がたくさん並び、あちこちで火が焚かれている広場はとても神秘的でした。
最後まで見届けたかった私ですが、祭りには村人しか参加できないため家に帰されました。従姉妹が顔をしかめてこちらを見てくるので、手を振って来た道を引き返しました。

それが従姉妹や祖母、村人達の、私が最後に見た姿でした。

祖母の家で寛いでいると、ギャー！という凄まじい叫びが聞こえてきました。
祭りで何かあったんじゃないか。
そう思った私は慌てて広場に向かいました。
広場に着くと、誰もいませんでした。
中央には真っ赤な柱が立っています。
良くみると、あの白い柱に血がベッタリとついて赤く染まっているようでした。
私は恐ろしくなって祖母の家に戻り、家で寛いでいた母に広場の事を伝えました。
すると母は真っ青になり、家にいた親戚を集めて広場に走って行きました。
取り残された私は怖くなりましたが、広場に行く方がもっと怖いため、寝室に戻ってスマホを触っていました。
そのうち段々と眠たくなり、寝落ちしてしまいました。