とっても素直な人
投稿者:ねこじろう (147)
ボンネットで跳ね返る雨音のせいか耳の後ろ辺りが12秒に1回のペースで、ズキンズキンと痛む。
意味不明な顔の火照りと心臓の動悸を感じている。
どうやら昨晩は飲み過ぎたようだ。
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会社を出たのは午後9時過ぎだった。
帰り際に蛇より53倍嫌いな上司の会田に捕まり、ねちねちした叱責を受け、いつもより随分と遅くなってしまったのだ。
─くそ、あんな男、死ねばいいのに、、
帰宅の途上、一人愚痴りながら歩道を歩いていると、何だか自宅にそのまま帰るのがつまらなくて、何となく駅前の居酒屋に立ち寄った。
店は結構混んでいて、奥のカウンターの端っこに座った。
ここまでは記憶があるのだが、それから後がほとんど思いだせない。
ただその時隣に座っていた若い男と意気投合し、ベラベラと熱弁をふるっていたところだけは断片的に脳内に甦ってきた。
とにかくかなり飲んでいた、ということだけは間違いなかったようだ。
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本格的な梅雨入りということで空には鉛色の雲が隙間なく立ち込め、今日は朝から雨が降り続いている。
とある大手の製薬会社で営業職をやっている俺は、その日
は朝から車で得意先を周っていた。
お昼になったので、コンビニで弁当を買って駐車場で平らげる。
その後、午前の営業報告を社内にいるあのクソ「会田」にしないといけないのだが面倒くさいから一眠りしてからやろうと、
大粒の雨の跳ね返る音をBGM にしてクーラーを強めにし、運転席のリクライニングを倒して目を瞑った。
右に左に何度となく体を横にして、ようやく心地よい微睡みの海に浸かろうとしたその時だ。
コンコン、、、
右側からウィンドウを叩く音で、いきなり現実に引き戻された。
目を擦りながら窓側に首を動かしてちょっと驚く。
誰かが運転席を覗きこんでいる。
30いや40くらいか、、、
雨のせいではっきりとは見えないのだが、前髪のほとんどない色白の痩せた男が満面に笑みを浮かべながら、傘もささずに立っている。
季節はもう夏だというのに真っ黒な長袖セーターを着て
おり、ウィンドウに顔を近づけ大きく目を見開き何やら懸命にしゃべり続けているようなので、少しパワーウィンドウに隙間を作ってやった。
すると言葉が一気にこぼれてくる。
素直すぎて恐ろしい!
確かに、、、
─ねこじろう