まじない奇譚
投稿者:竹倉 (9)
「母は。3月の大空襲によって命を落としました。焼夷弾の爆風から幼い妹を庇って亡くなったと。」
背筋を伸ばしてEさんはそう仰られました。
その後8月に広島と長崎に原子爆弾が投下。ポツダム宣言を受諾し日本は太平洋戦争に全面降伏を行った。それは教科書通りのお話でした。
「焼け野原となった東京に戻って、当時の私はこれから先の生活に絶望しか見いだせなかったわ。もう不安で不安でたまらなかったの。」
「でもね、挫けそうな自分を元気づけてくれたのは今貴女が持っているそのお手玉だったのよね。鱗文様、麻の葉文様、籠目文様そのひとつひとつの模様に意味が込められているの。言ってみれば、おまじないのようなものね。」
「Eさんのお母様はなにかこう……占い師みたいなものであったのでしょうか?」
私のその頓珍漢な質問に目を見開いてそして笑いながらEさんは答えてくださいました。
「さっきも言ったけれど、母には普通と違った面があったのは本当の事なの。」
無くし物をした際に、速やかに発見ができたこと。
突発的な来客や天気、凶事を言い当てることができたこと。
そして何より、言霊信仰ではないけれど、おまじないに長けていたことが挙げられていました。
言葉で妙に人を納得させるだけの力があったそうです。
「母がなくなって幾日かが過ぎた頃、私の夢に母が現れるようになったの。生前の頃と変わらずの優しい表情。私は母と話がしたかったのだけれど、母は何やら手で印をを結びながらしきりに何かつぶやいていたの。」
「オンバラダハンドメイウン オンインドラヤソワカ……」
奇妙な呪文ではあったが、Eさんはなにも不安はなかったそうだ。
むしろ聞く都度心が安らいでいったそうです。
ほどなくして生き別れていた妹さんとも再会することができ、またお父様からも大陸からの引き上げで内地へ戻って来られるとの電報が届いたとのことでした。
戦地から引き上げてきたお父様の話によると、出兵前にもらったお守りが功を奏したのか、まるで鉄砲玉の方から、お父様の事を避けていったのだとか。
おかげで全く持って無傷で終戦を迎えることができたらしいです。
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その後は、夢の中で奇妙な呪文を聞くことはなくなったとのこと。
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「妹が話していたのだけれど、私が長野へ疎開へ行った後、毎晩床へ入るたびに母から聞かされていたまじないの言葉があったそうなのね。」
……オンバラダハンドメイウン オンインドラヤソワカ……
Eさんが復唱してみせる。
「平和のおまじない。私が夢の中で聞いていたものと同じものだったの。」
怖い話、というよりも本当に素敵お話、情景描写で引き込まれました。また楽しみにしております。
とても、不思議。
時代背景とか、引き込まれる感じ。
久しぶりに、不思議で素敵な話しでした。
美しい。
とても素敵なお話でした。
わかりやすい話し方で、すぐEさんの世界観に引き込まれました。
唱えている呪文は密教のマントラですね。
真言宗のお寺の家系なのでしょうか。
世界観に引き込まれました。
この手の話はとっても興味あります。
そして見えない世界の大きさも
信じれますね。信じる人は救われます🙏
m.yより
おもすろい。
m.yより
って上のコメントで書いてる人、自分が有名人って勘違いしてておもろい
怖くないけど、好きです。
不思議な話は必ずしも怖いとは限らないのですね。当時中学生の書き手さんの行動力にも感服します。意図せずさわやかな気持ちになれました。
サムハラ?
サムハラ神社てのが岡山にあるな。サンスクリット系の言葉から来てるのかもな
オンマシリソワカとかは真言だからこと不思議でもない。
生まれ月によって守り御本尊があったり、そこ言葉があるし、地蔵様へもあるからよくあること。
気になるなら調べたらいい。
オカルトは知らんが昔の修行者や武術家なら当たり前の世界でもある。
五問銭は死線を越えるっつって四銭より上だから戦中はよくある願掛けだ。
カラス銭だったか。