廃墟実況ライブ
投稿者:ねこじろう (147)
『はい。
というのは長男はある日を境に精神を病みだし、おかしな行動をとるようになったからなんです。
若い頃の彼は三度の飯よりも猟が好きだったらしく暇さえあれば裏山に分け入り、日がな1日鹿やウサギそして猪などを撃っては楽しんでいたそうです。
そしてある日の夕暮れのこと、猟から帰った彼は、とてつもない獲物を仕留めたと言って異常に喜んでいたということでした。
大八車に乗せられ縄で縛られたそれは、体長3メートルはある立派な角をした巨大な雄鹿だったそうです。
ただそいつは普通の風体をしてなかった。
その体躯は金色の毛並みをしており、顔面は人間そのものだったということでした。
長男は家族を庭に呼び出すと横たわるその異形の鹿を指差しながら、俺はとうとう【山の主】を仕留めたんだと言って狂ったように小躍りしていたということでした。
ですが他の家族たちは、こんな大それたことをして後から天罰が下るのでは?と恐れおののいていたということです。
そしてその心配は的中し、その翌日から彼の行動は常軌を逸脱し始めたそうです。
まずあれ程好きだった猟には一切興味を示さなくなり、外に出歩かなくなりました。
それから1日中裸で過ごすようになり、何故か四つ足でうろつくようになります。
やがて家屋内には立ち入らないようになり、庭で生活するようになりました。
そしてとうとう人間的な食事をしなくなり、その代わり裏山に分け入ってはウサギやネズミいたち、そして挙げ句は蛇などの小動物を捕まえては貪り喰ってたそうです。
心配したご両親はお医者さんに来てもらって診てもらったり、祈祷師に頼んで祓ってもらったり、したようなんですが、全くダメだったようで、最後はやむを得ず屋根裏に座敷牢を作り、そこに長男を閉じ込めてしまいました。
そしてそれから数年経った暮れも押し迫ったある日の深夜のこと。
突然部落内を悲痛な男女の悲鳴が響き渡りました。
何事かと村人たちが外に出て辺りを捜索すると、悲鳴はこの家屋からということが分かり急いで入ると、1階の土間と居間にそこの祖母と父母が血だらけで倒れていたそうで、室内は凄惨な状況だったそうです。
後から警察が言ったのは、祖母も父母もまるで野生動物に襲われたかのように喉元を喰いちぎられていて、出血多量で亡くなられていたということでした。
ただその時何故か家屋には、そこの長男と妹の姿が見当たらなかったようで、その後警察は村人たちとともに徹底的に捜索したらしいのですが一月経っても見つからず、未だに消息不明なんです。
それから主を失ったこの家は見てのとおり、中も外も当時のまま時間が止まっています。
部落の者たちはここを『忌まわしい家』と呼び、誰1人として近付こうとしなかったそうです』
『なるほど、なんだか凄く恐ろしい話ですが、それで今回お手紙いただいた理由は?』
尋ねると、Hさんはまた訥々と話しだした。
『最初は平成の終わり頃だったと思います。
村人の何人かが、この空き家には誰かいるのでは?と言い出したんです。
よくよく聞いてみると、猟とかの帰りにこの家の前を通り掛かった時、2階の飾り窓にボンヤリ灯りが灯っていて、窓辺に人が立っているのが見えたというものでした。
また生い茂る木々の狭間を四つ足で歩く、奇妙な動物を見たという者もいました。
それは令和に入ってからもちょくちょくあり、実は最近ボクも見たんです』
そう言うとHさんは10メートルほど後方まで歩く。
男が金鹿を殺したんだから、男が金鹿になるんじゃないの?
妹は急にどした。
その男が金鹿になり、妹は祟りで同種に変異したんやろ、、、
皆様、なかなかに鋭いところをつきますね。ラストの場面につきましては、それぞれで解釈していただければ?と思っております。─ねこじろう