顔が見えないストーカー

集落の人たちは、当たり前だが猛反発。当時、大きな力を握っていた電力会社か何か大きな会社の集団なんだろうな。

その集団の中には、例の青年もいた。おそらく、現地調査で集落に来ていたのが、例の旅人のときなんだろう。

集落の娘は、なぜそんなひどいことをするのか、と青年に持ち掛けたが、青年は「お前とはただの一夜二夜遊んでやっただけだ。口を出すな。」と冷たい返事をしたという。

人生で初めての恋をしたことに対する裏切りに、その娘はひどい絶望を感じ、

川に身投げをしてしまったそうだ。

こんなことがあったからか、その土地をダム化することは延期され、次第にプロジェクト自体も衰退していって、現在この土地は普通に存続しているという。

そして、それからこの土地には奇妙なうわさが出るようになった。女性の恋心を裏切った男が、その女性に仕打ちを受け、ひどい目に合うのだが、その女性本人は何もした覚えがない、ということである。

最初は、その女性が頻繁に、自分の夜道に現れるようになる。しかし、話しかけてもすぐにどこかへ行ってしまうし、その女性本人に会うと何も覚えていないという。

次第にその女性はその男性を襲うようなしぐさを見せるようになり、最終的には川に突き落としてしまうというのだ。

川に突き落とされた男性が、「あの女にやられたんだ！！」と毎回いうものの、当の女性は記憶がないどころか、男性を襲える状況ではなかったというアリバイさえあるものだから、困っていたらしい。

男が突如行方不明になり、その遺体が川やら河口やらに浮かんでいることが珍しくなかったとか。

そんなことから、この土地では、「女性を裏切ると、女神さまの罰が当たる」なんて言い伝えが広まって、そういう色遊びのような行為がなくなっていったらしい。

「恋を裏切られて身投げをした娘さんの霊が、身代わりになって祟りとして出てたんでしょうねぇ。」

なんて住職は言った。

そんなこともあり、十数年はうわさも聞かなくなっていた祟りが最近復活したんだとか。

そう、大学生の街になったからだ。

言うまでもないが、大学生なんて人生の中で一番遊んでいる。飲み会し放題したり、ドライブに出かけたり、もちろん色恋も一番雑になるのが大学生たちだ。

自分は違う、という人は多いかもしれないが、恋仲ではなくてもやれ男女関係を持つ、浮気をする、などはよく大学生では起こりうることである。

これに娘の霊は大激怒したんだろうな。あとから大学の先輩とか教授とかに、住職から聞いた話を聞いてみると、結構有名な都市伝説だよと教えてくれた。

だとしたら、私のもとに現れた娘の霊は、私がAを弄んでいると勘違いしてしまったのだろう。ただ、本当のことがわかったら彼女のもとにまで現れて謝ってくれるとは、なんとも律儀な死霊である。地縛霊とか地縛神とかの方が正しいのかな？川に沈められなくてよかったと思った。

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それからというもの、特に変わったことは起こらなかった。

私もAも特に当たり障りなく楽しく大学生活を過ごしており、一緒に組んだバンドも楽しく続けている。

今考えると、スマホいじってるのに顔が影になって見えないってなんだよ、とか思った。ベンチに座っていたストーカー人外のことである。普通、スマホいじってたら顔くらい照らされるだろ。

しかも、それが相当昔の娘さんの地縛霊なんだから、スマホいじくる仕草をとれるというのも、なんだか最先端の流行にも乗っかれるんだろうなと思い、感心してしまった。若くして霊になったので、時代による適応能力も高いんだろうな～と。

くだらないことを考えてはいたが、一つ気にかかることがあったのだ。

Aと親友は付き合っている。ただ、この親友というのがかなりの色好きで、あらゆるところで女遊び女遊び、みたいな奴であった。

私とAに起こったことは、私は二人の中で秘密にしている。カルト好きのAが、「怨念とかって他人に話すだけで巻き込んじゃう可能性があるから、住職さん以外には話しちゃだめだよ」っていうもんだから。

すなわち親友はストーカー人外のことを知らない。いや、もしかしたら都市伝説的なことを聞いたことはあるかもしれないが、そういうことに興味を示すタイプではない奴なので、気にしてないか忘れているだろう。

そんな親友が、私に相談してきた。