無名の山
投稿者:Nilgiri (3)
「そんなものが手掛かりになるわけないだろ。誰かに見せても、ふざけていると思われるだけだ。かえって俺たちへの疑いのネタになる。東屋のことは誰にも言うなよ。」
俺は、この時のAの顔を一生忘れないと思う。消えてしまった東屋なんかよりも、俺にとってはよっぽど…Aの顔の方が恐ろしい気がした。
その後、周囲が暗くなり始めた頃に警察や俺たちの両親、学校の先生までもが集まってしばらく探し回ったが、やはりBは見つからなかった。俺たちは警察や親に事情を何度も聞かれ何度も説明した。
ただ、あの東屋に関しては、誰も何も言わなかった。俺はAのことが怖かったわけではないが、いざあの東屋や石の祠のことを話そうとすると、どう説明すべきか分からなくなって言葉が出てこなかった。Cも時々何か言いたげに俺の顔を見たが、俺にはどうすることもできなかった。もし、デジカメのデータが残っていれば、誰か信じてくれただろうか?
そして、これ以上の捜索は、今日は難しいとのことで、19時頃に解散となった。俺たちはそれぞれの親に車に乗って、キャンプ場を後にしたのだった。
あれからもう10年以上たってしまった。結論から言えば、Bは結局いまでも見つかっていない。
Aが言った通り、当時の状況から遭難というよりは家出だろうということで警察の方でも広範囲にあれこれ捜索したようだが、Bは携帯を持っていなかったこともあり山の中での失踪で目撃者もなく、全く手がかりのつかめないまま時間だけが過ぎていった。また遭難するような山ではないということで、山での捜索はそれほど行われなかったように思う。
Bが家出扱いされていることに、どうしてもどうしても納得のいかなかった俺は、夏休みの間、親に連れて行ってもらって何度かあのハイキングコースにBを探しに行ったが、何の成果も上がらなかった。あまりにあの道に固執する俺に母親は言った。
「あんたの気持ちもわかるけど、B君は多分家出したんだと思うよ。再婚した義理のお父さんと折り合いが悪かったって聞いているし。それにわざわざ、山の中に家出なんてするとも思えないわよ。きっと、どこかお友達の家にでも匿ってもらっているんじゃない?」
俺は少し躊躇したが、とりあえず東屋のことは伏せて、石の祠について母に聞いてみることにした。
「実は、俺たちこの道を歩いていた時に石の祠を見たんだよね。古いやつで、饅頭が供えてあったんだけど…。Bのやつ、饅頭食っちゃって。関係ないとは思うんだけど、気になってってさ。神様へのお供え物みたいだったし。」
「祠ねぇ?この辺りに、そんなものあったかしら。見覚えがないけど。神様がいるような山じゃないわよ。だって何十年か前に林業のために切り開いた場所だもの。なんの由来もない、ただの山よ。誰かの供養でお饅頭がおいてあったのかしら?家出は前々から考えていたんだろうし、あんたたちのせいじゃないわよ。きっと、そのうちB君だってひょっこり帰ってくるんじゃないかしら。」
俺は、地元の図書館へも行ってあの山に関する情報を調べようとした。だが、そもそもあの山のことを記述した資料がほとんどなく、特に何の情報も得られなかった。
そして、学校が始まって久しぶりにAとCに顔を合わせたが、俺たちの関係性はあの日以来すっかり変わってしまった。俺はAと一切口を利かなかったし、Cも陰気臭くなっていて、そのうちそれぞれ別の友人とつるむようになってしまった。
今ではあいつらの近況も全く分からない。俺は高校を卒業して県外の大学へ行き、その後も県外に住み着いて、実家には盆と正月に帰るだけだ。
ただ、盆になると時々俺はあのキャンプ場へ出かける。ハイキングコースへは登らず1日のんびりとキャンプをするのがお決まりだ。いまさらBが出てくるわけがないかもしれないが、もし万が一億が一Bが現れたら、あの日の続きのキャンプをするのも悪くないと思うからだ。
だから、俺はキャンプへは必ず酒を持っていくようにしている。
読み応えありました。
おもしろかったよ。
B君は家出じゃないね。
突然行方不明になり、事故、事件関係ない場合は違う世界に行ってしまったのかもしれない。
背景が目に浮かび、釘付けになりながら読ませて頂きました。
後味まで含めて、とても不可解で不思議な話でした。
変な因縁話がないのがとてもリアルで読みふけってしまいました。
面白かったです!
b君は結局家出なのか、遭難なのか、考えさせられますが、リアルに有り得る話で楽しく読ませて頂きました。恐さよりも不可解でしたね。
面白かったです。
Aは性格上、この異常すぎる事件に関わるのはヤバいと思って割り切ったのか
本当はあの祠の事について知っててBの行方も知ってたのか
それとも超常的な何かに取り憑かれて警告したのか。
何れにせよ真面目とされてたAがあんなふうに友達に対して冷淡になったのは興味深いですね。