帰り道
投稿者:おいえれ (3)
会社の後輩が昔体験した話
当時、後輩は地方に住んでおり、自宅から会社まで車で40分ほどかけて通勤していた。
ある夏の日の帰り道。周りが少し暗くなってきたなという時刻。
後輩はいつものように車で帰路についていた。
会社がある中心街を出ると、広い田園風景が広がり、その中に家がポツンポツンとあり、そこを過ぎれば家もなく、ただただ木々に囲まれた薄暗い道路を走って行くのだが、その道中に小さな祠があったそうだ。入り口には大人が1人入れる程の赤い鳥居があり、奥には黒い屋根に苔の生えた小さな祠が少し見える。赤い鳥居は色も剥がれ今にも崩れてしまいそうな程朽ちており、奥に見える祠も随分と古いものに見えた。周りも鬱蒼と茂っており、誰かが管理している様子もなかったという。
いつもであればいつもの風景としてチラリと見て終わるこの祠だったが、この日はいつもと違っていた。
赤い鳥居のところに男が1人背を向けて立っていたのだ。驚いて通り過ぎたあと少しスピードを緩めバックミラーで確かめて見ると、水色の袴に烏帽子をつけた神主のような男が鳥居に立ち、祠の方を見ている。薄暗くハッキリと何をしているのかわからないが後輩は「ああ、ここの持ち主なのかな?」と思ったそうだ。
そのまま後輩は車を走らせ「へー。人がいるとこなんて初めて見たなあ」と独り言を呟くと、ふとこんな事を考えた。
「今、目を瞑って運転してみたらどうなるのかな?」
「今、ハンドルから手を離してアクセルを思いっきり踏んだらどうなるのかな?」
「今、あのカーブをハンドルを切らずに真っ直ぐ突っ切ったらどうなるのかな?」
「今、反対車線をスピードを出して走ったらどうなるのかな?」
「ちょっと電柱にわざとぶつかってみようかな」
そこまで頭に浮かんだ瞬間、後輩はハッとして我に返った。
「あれ?今何でこんな事考えたんだろ…絶対死ぬじゃん。あれ?でもちょっとやってみたいなあ」とまた同じような事を考えしまう。はっきりと「死にたい」ではなくて死に至ることを「やってみたい」という考えが頭から離れない。後輩はダメだダメだと思いながら、必死に抵抗しているうちに、意識が朦朧とし始めた。そして「ちょっとだけ。ちょっとだけ目を瞑っちゃおう…」と思った瞬間、対向車線の車がパッパッとパッシングをしてきた。後輩はそのパッシングを見た瞬間に意識がハッキリと戻り「危ねえ!」と慌てて路肩に車を止め事なきを得た。
後日、ふと何故あの車は自分にパッシングをしたのだろうと考えた。
あの車に見覚えはなく、誰が乗っていたのかも記憶にない。もしかして…自分の横に誰か乗っていてそれに気付いてパッシングを…とも思ったが恐ろしいので、意識朦朧でフラフラしているのに気付いてパッシングしてくれたんだろうなと考えることにしたそうだ。
後輩は話し終えた後「でもパッシングで良かったです。この時、ストレスが原因で一時的に難聴だったんです。クラクションだったら聞こえてなかったかも知れません」と笑っていたが、自分には後輩の状況を知る誰かがを守ってくれたようが気がしてならない。
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