無名の山
投稿者:Nilgiri (3)
忘れられないキャンプの話をしたい。
実際のところ、キャンプというよりはハイキングの最中に起こった出来事なのだが、それは俺が高校1年生の夏休み友人3人と一緒にとあるキャンプ場に遊びに行った時の話だ。
当時俺が住んでいたのは、かろうじてマックスバリュとコンビニがある程度の田舎で、当然高校に関しても選択肢がいくつもあるはずがなく、中学時代のクラスメイトがほぼスライドして通う高校に進学して迎えた初めての夏だった。
俺には、昔から仲のいいA・B・Cという友人がいたんだが、なんとそいつらも全員同じ高校(別に驚くことではないが)。そして同じクラスだった(これはちょっと嬉しい)。
ほとんど中学時代と代り映えのない面子で、休み時間もだらだらと駄弁っているのがお決まりだったのだが、夏休み前Bが突然こんなことを言い出した。
「山ガール捕まえにいこうぜ。」
「はぁ?」
「お前ら知らねぇの?今、女子には山が流行ってるんだぜ。」
突拍子もないBの言葉に思わずAと一緒になって聞き返すと、Bが小ばかにしたようにそう言う。Bというのは俺たちの中でも、一番のお調子者でいつもアホなことばっかり言っている奴なんだが、ネットや雑誌の流行に敏感で時たま知ったばかりの情報をひけらかすことがあった。
「女子が山になんて行くのか?」
だいたい、山なんて爺ちゃん婆ちゃんが山菜でも取りに行くイメージしかなかった俺には想像できなかったが、Bがいうには都会の女子には今登山がブームらしい。
「これ見てみろよ。」
そういって押し付けられた雑誌には、確かに小綺麗な雰囲気の女性が見晴らしのいい山頂にいる写真とともに“山ガールに聞く、今登るべき山”という言葉が表紙にデカデカと踊っていた。
「今こそ、冒険の時なんだよ。ぶっちゃけ、このクラスに可愛い女いないじゃん。夏休みどうせ暇なんだし、本当に可愛い女の子探しに行こうぜ。遠くまでは行けなくても、山なら近くにいくらでもあるじゃん。」
Bは、おおよそクラスの女子には聞かれたくないド失礼なセリフを言い放つと雑誌の表紙を手でたたいた。
「お前、メディアのいうこと鵜呑みにしすぎなんだよ。だいたい、女子が登るような山なんて都会の山だけだろ。この辺の山じゃねぇよ。」
クラスの委員長をやっている真面目なAは、“都会の山”という矛盾したワードでBに反論したが、言いたいことはわかる。都会からアクセスのいい、風光明媚な景色のある著名な山。そして付け加えるなら、ハイキング程度で登れる山だろう。
俺たちの住む田舎にも山は多いが、周辺に住む人間でさえ名前も知らない無名の山ばかりだ。そりゃ登れば景色がそれなりにいいところもあるかもしれないが、特に有名な場所もない。
「へぇ~。そんなこと言うけど、じゃあAは確かめたことあんの?夏休みなんだし、都会からたまたまやってきた女の子が、近くの山に登ることもあるかもしれないじゃん。」
Aから水を差されても、なおもBは食い下がった。
「俺だって、都会の女の子がぞろぞろ遊びにくるとは思ってないけど、登山がブームなら有名な山じゃなくても登りに来る子も何人かはいるかもしれないだろ。行ってみないとわからないじゃん。」
根拠もない話だったが、Bがそこまで言うのと山ガールを特集する雑誌をぱらぱらとめくっていたせいか、だんだん俺も1組くらいは近所の山に登る山ガールがいるのではないかという気持ちになってきた。どうせ何の予定もない夏休みだ。ダメもとで行ってみるのも悪くないかもしれない。だが、すぐにBに同調するのも何となく気恥ずかしかったから、俺は黙って二人の会話を聞いていた。
そして、そこに職員室に提出物を持って行ったCが戻ってきて話に加わった。
「何の話してんの?てか、今日は数学の金田まじしつこかったわ。」
「お前が、課題遅れるのが悪いんだろ。」
Aに突っ込まれつつCはへらへらと笑う。
「お疲れ~。金田、昨日競馬で負けたから機嫌悪いんだよ。あいつギャンブラーだからな。」
Bはどこでネタを仕入れているのか変なところで情報通なのだ。
「あいつギャンブラーなの?知らなかったわ。今度から、あいつが負けた時は教えてくれよ。」
俺とAがBの耳の早さに驚くやら、Cに呆れるやらしているうちに、話題は再び山ガールを探しに行く話に戻った。
読み応えありました。
おもしろかったよ。
B君は家出じゃないね。
突然行方不明になり、事故、事件関係ない場合は違う世界に行ってしまったのかもしれない。
背景が目に浮かび、釘付けになりながら読ませて頂きました。
後味まで含めて、とても不可解で不思議な話でした。
変な因縁話がないのがとてもリアルで読みふけってしまいました。
面白かったです!
b君は結局家出なのか、遭難なのか、考えさせられますが、リアルに有り得る話で楽しく読ませて頂きました。恐さよりも不可解でしたね。
面白かったです。
Aは性格上、この異常すぎる事件に関わるのはヤバいと思って割り切ったのか
本当はあの祠の事について知っててBの行方も知ってたのか
それとも超常的な何かに取り憑かれて警告したのか。
何れにせよ真面目とされてたAがあんなふうに友達に対して冷淡になったのは興味深いですね。