クビになったおっさん

そうだ、誰かに見てもらったらどうなんだろう?
他の人からも生首人間に見えたら、こりゃ傑作だ。
オレはウキウキして玄関を出た。
エレベーターに乗る。もうそれだけでおもしろい。
エレベーターの中に生首人間になった自分が浮いているのだ。

外へ出る。外の空気が気持ち良い。
生首だけで空中浮遊するのがこんなに気持ちいいなんて・・・。

夜なので人通りがほとんどない。でも車は走っている。
「そうだ、クルマの前に生首で飛び出したら、きっとびっくりするだろうな、ククク」
いたずら心に火がついて、オレは車道に飛び出した。

次の瞬間、オレはベッドの上で気が付いた。
自室のベッドではなく、病院のベッドだ。
・・・首も体も動かせなくて状況がわからない。が、オレが目覚めたのを見て
看護師やら先生やらがせわしなく動き出した。

しばらくして、落ち着いてからお見舞いに来てくれた彼女が話してくれた。
あの日オレは全裸で車道に飛び出し、クルマに轢かれて重傷となっていたのだと。
しかも、どう見ても事故でできた傷ではない、ナイフで刺したり切ったりした跡がいくつもあったという。なので事件・事故、自殺未遂の線で警察が動いていたらしい。
家宅捜索もされ、自室から血の付いた包丁と大量の血痕も発見された。
エレベーター内も血まみれだったらしい。

彼女が泣きながら抱きついてきた。
「もう、なんでこんなことしたのよ!自殺なんてダメ!!」

オレの意識は完全に戻った。だが、不思議なことに体の感覚が戻ることは無かった。