吊り人
投稿者:ねこじろう (156)
生暖かい汗が次々に頬をつたい、顎先からポトリと落ちた。
「そ、そんなこと、あるはずが、、単なる都市伝説なんでしょう?」
動揺する俺の問いかけに榊原さんは答えることはなかったが、何故か無言のまま左斜め上方を指差す。
訳が分からずその差す方に視線を移したとたんに全身が凍りついた。
頭上のはるか上の複雑に交錯する枝枝の手前の空中に、黒い人影らしきものがポツンと浮かんでいる。
それは黒いスーツの上下という場違いな風体をした男。
地上から3メートルはあろうかという辺りでだらりと直立したまま俯き、ゆっくりと回転している。
よく見ると、その頭上の太枝に通した縄の先に首を通して、ぶら下がっていた。
「ひ!」
小さな悲鳴をあげながら後方にのけぞる俺の姿を横目に見ながら、榊原さんは口を開く。
「あんな曲芸のような芸当、、、
とても一人では出来ないだろう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それからも俺たちは巨木の袂に寄りかかり、ただ何をするわけもなく時の過ぎ行くまま過ごしていた。
やがて夜が訪れ、朝が来た。
たまに思い出したかのように下らない世間話をどちらからともなく始めたり、二人ぼんやり無言で木漏れ日を感じたりしながら訪れた3日めの夕暮れ時のこと。
食べ物も水さえも体内に入れてないせいか、少し意識が朦朧とし始めていた。
ふと隣に目をやると、榊原さんは両膝に顔を埋め微動だにしない。
「さ、、榊原さん、、、」
恐る恐る声をかけると突然、うわ言のように喋りだした。
「郁代、、、すまん、、、
もう少しすると、俺も、俺もそっちに、、、」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それからどれくらいが経った頃だろう。
夜空に浮かんだ満月が、絡み合う枝の隙間から怪しい光を放ち出した頃のこと。
いつの間にか辺りには、怪しげなドライアイスのような白い霧がユラユラ漂っていた。
しばらくその幻想的な眺めに目を奪われていると、何処からだろう何か引き摺るような音が聞こえてくる。
ズズ!ズズズ、、ズズ!ズズズズズズ、、
その音は少しずつ、こちらに近づいてくるみたいだ。
ズズ!ズズズ、、ズズ、、ズズズズズズ、、ズズズ
息子さんの為に生きてください。
読みごたえの、ある文章ですね。うますぎます。
kamaです。情景が見えてくる文章がとてもいいですね。好きです。
なんかスレンダーマンを少し変えたような存在だな吊り人。もしかしてイッチさんが見たのはスレンダーマン??
感動の最後
自殺系はいつも最後に感動があっていい