ひっくり返った顔
投稿者:ねこじろう (147)
それはまだまだ寒さの続いていた3月のことだったと思う。
仕事によるストレスからか、毎晩私は奇妙な夢にうなされていた。
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私は何故だか動物園にいる。
昼間だというのに曇り空なのか、園内は古いアルバム写真のように、どこもどんよりセピア色に染まっていた。
歩く人影も、どことなく虚ろで疎らだ。
私はというと一人ぼんやりとガラス越しから、世話しなく動き回る猿たちを観ていた。
すると、
「あの、、、」
真横から女の声がする。
誰だろうとふと首を右に動かした途端、ゾワリと背筋が凍った。
30前後くらいだろうか、黒いドレス姿の色白の女が立っている。
ただ、女は普通ではなかった。
顔がひっくり返っているのだ。
つまり顎と口元が上で、頭部が下にあり、長い黒髪をダラリと下に垂らしている。
そんな異様な風体の女が怯えたような瞳で、下方からじっとこちらを見ていた。
う、うわあ!
私は恐ろしさのあまり、思わずその場から逃げるように立ち去る。
何度となく転びそうになりながら、園内の遊歩道を必死に走り続けた。
途中すれ違う者は皆、何故かさっきの女と同じ様なひっくり返った顔をしており、皆一様にあの怯えた瞳でこちらをじっと見ていた。
た、助けて、、、
何度となく転びそうになりながら、ようやく出口が見えてきた時、いつも目が覚めていた。
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連日そんな悪夢に苦しめられていた、ある日のこと。
その日の天気予報は、夜半から雨ということだった。
仕事を終えた私は、いつもの通り夜7時過ぎには4階にある自宅マンションに到着していた。
リビングに入りカバンを下ろすと、まっすぐ奥まで歩き、サッシ戸を開き、ベランダに出る。
朝出かける前に干した洗濯物を取り込まないといけないのだ。
冷たい風がサッと首筋を擽っていく。
正面を見ると夜空には星が見当たらなかったが、幸運にもまだ雨は降りだしていなかった。
途中で予測つくな、洗濯のあたりでオチが。