ひっくり返った顔
投稿者:ねこじろう (154)
足元に大きめの洗濯カゴを置くと、暗がりの中、てきぱきと次から次に下着や衣服を放り込んでいく。
全ての洗濯物を回収し、カゴを片手に、ベランダから出ようとした時だったと思う。
何気に後ろを振り向いた時だ。
柵の僅か向こうの漆黒の虚空にいきなり、逆さまになった白い女の顔だけが降ってきたのだ。
まるでボールが落下するかのように。
驚いたことに、それは、あの夢の中の女だった。
ほんの数秒くらいで下方に消えてしまったのだが、その時私は確かに女と目が合った。
女のめい一杯開いた怯えたような両目と、ピタッと合ってしまったのだ。
「うわ!」
私は思わず声を出し、洗濯カゴを抱えたまま、リビングの床に倒れこんでしまった。
息を整え立ち上がると、改めてベランダの方を見たが、もう女の姿はなかった。
その晩の寝つきは良くなかった。
目を瞑ると、あの女のひっくり返った顔と怯えたような瞳が現れてしまうからだ。
いったい、あれは何だったのだろうか?
どうして、あの夢の女が突然現れたのか?
私はその日、悶々としながら一夜を過ごした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌朝、出勤しようと、マンションエントランスを歩いていくと、入口前にちょっとした人だかりが出来ている。
どうしたんですか?と、手前に立つおばちゃんに聞いてみると、飛び降り自殺ということだった。
人だかりの先を見ると、植え込み手前のアスファルトに人が倒れていた。
真っ黒いワンピースの女が仰向けに倒れている。
手足はあらぬ方向にねじ曲がり、首を思い切りのけ反らせ、逆さまになった血だらけの顔だけをこちらに向けていた。
その怯えたような目を見た瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。
そしてようやく私は合点がいった。
【了】
途中で予測つくな、洗濯のあたりでオチが。
こわい