ひとりあそび【ジロウくん】
投稿者:ねこじろう (147)
私は今年30になるシングルマザーです。
これから話す話は、私が一人娘と一緒に遭遇した恐ろしい体験です。
そしてその恐怖は今もまだ続いているのです。
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「ねえ、ママー、今日はジロウくん、いるかなあ?」
助手席でうつむき退屈そうに足をぶらぶらさせながら一人娘の莉菜が呟く。
ピンクのトレーナーにジーンズのつなぎ姿が可愛い。
「大丈夫大丈夫、だって今日はお天気も良いし、たぶんジロウくん、いつもみたいに魚釣りしながら莉菜ちゃんを待っててくれてると思うよ」
私は右前方の「S 山入口」という標識の手前でハンドルを切りながら言った。
「ほんと!?
じゃあ今日はジロウくんと、いっぱいいっぱい遊んでいいんだね?」
「もちろんだよ だからゴムボールとかも持ってきたんでしょ?」
「うん!ジロウくんと一緒に遊ぶんだ!」
「ジロウくん」というのは最近の莉菜のお気に入りの友達だ。
友達といっても現実ではなく想像上の友達だ。
なんでも河原で暮らす、釣りが大好きなお兄ちゃんだそうだ。
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離婚してようやく3カ月が過ぎた。
最近やっと安定した職が見つかり古いけど母子二人には十分な広さのアパートで、私たちは懸命に生きている。
ここ数年7歳の一人娘の莉菜には本当に悲しい思いをさせてしまっていたと思っている。
恐らく「ジロウくん」も莉菜の寂しい心が構築した世界の住人なのだろう。
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市街地から北方へ1時間ほど走ったところにあるS 山中腹にある川辺のキャンプ場に着いたのは午後2時過ぎ。
キャンプシーズンも終わったせいか、広い河原には人の姿はないようだ。
川幅は割と広くて向こう岸に見える山肌や草木までは、たぶん100メートル以上はありそうだ
水深は浅くて一番深いところでも大人の膝くらいだろうか。
「わああ!お水がきれい!
ここなら、お魚いっぱい釣れるね」
子供の無邪気な心はやっぱりすごい…