特にオチも何も無いちょっとした体験談なんだけど、今でもたまに『あるモノ』が見える事がある。
初めて見えたのは中学の頃。
冬頃だったかな。
実家のリビングは石油ストーブがあったから暖かかったんだけど、トイレに行くのが億劫だった。
田舎住まいの人は分かると思うんだけど、廊下に出た時の寒暖差って凄いんだよ。
廊下に出た瞬間ほぼ外と変わらない気温で、ドアを開けたら「早く閉めろ」と家族から怒られるくらいに寒い。
それで当時はLED電球とか普及してなかったから廊下の明かりは白熱球だったんだけど、暖色の明かりを点けてトイレに駆け込む。
生まれ育った家だから勝手知ったるものだ。
殆ど流れ作業で駆け込むんだけど、トイレに入る間際に、何かがチラついた。
『何か』というか、明らかに人の形をしたモノが見えたんだ。
トイレの横に広めの玄関土間があるんだけど、そこに蹲るような形で『人らしきもの』が俺の方を見ているようだった。
思わずトイレに駆け込んでドアを閉めるタイミングで「あれ？」って感じで立ち止まって玄関土間の方を見る。
だけど、廊下の白熱球の僅かな明かりに照らされたすりガラス仕立ての玄関ドアが見えるだけで、そこに人と見間違えるような物が置いてあるとかは無かった。
気のせいだと思ってそのままトイレで用を足したんだけど、トイレから出ていざリビングに戻ろうと踵を返した時、また視界の端に人の形らしき残像が見えた。
今度はサッと翻って人らしき残像が見えた方をすぐに確かめたんだけど、やっぱり人は居ないし、そもそも人と見間違えるような物も無かった。
おかしいなあ、と首を傾げながらリビングに戻ったが、結局その日は『人らしき残像』を見る事も無く、普通に寝た。
でも、確かに視界の端に人っぽいものが映り込んだんだよなあ。
次にその『残像』を見たのは学校の体育の時間だったと思う。
俺は先生に頼まれて友達と一緒に授業に使うボールと得点版を体育倉庫に取りに行ったんだけど、倉庫の奥に置かれた得点板とボールを担ぎ出している最中に体育倉庫の影に何か見えた気がしたんだ。
マットレスとか跳び箱なんかが置かれた隙間。
ちょうど人が一人くらいなら入れるだろうというスペースに体育座りしている人影が見えたから「うおっ」ってビビって声が出た。
友達は「どした？」と、俺につられて驚いた仕草をとってた。
俺は人影が見えた場所をまじまじと確かめたが、当然誰もいなかったので、「何か虫がいた」とごまかした。
おかしいなあ、人が居るように見えたんだけどな。
不思議に思って体育でバスケをしていると、やっぱり妙な気配というか、視線を感じるんだ。
それでコートの中で走り回っていると、パス回ししている最中や走ったり切り替えしたりする際、どうしても視界の端に残像がチラついてどうも授業に集中できなかった。
視線を感じる方に振り向けば、ものすごいスピードで死角に引っ込むと言えばいいのか分からんけど、絶対に姿を捉えられないスピードで残像のように消えるんだ。
でも本当に残像だけ残るような感じで、毎回視界のどこかに写り込む。
何言ってるか分からんけど、視界の端ギリギリの見えるか見えない位置に居る感じ。
そんな感じの現象が大体週に一回とか、月に何回か現れるようになった。
もしかして目の病気？それとも脳から来てるのかな？
何かの病気だったら嫌だなと思った俺は、先ず最初に眼科に行ってみたけど特に問題は無かった。
結構怖い