ケンちゃんクリーニング
投稿者:ねこじろう (149)
しばらく歩き、途中小さなローカル駅前の広場を通りすぎようとした時だ。
広場の真ん中辺りで女性が一人立ち、何やら声を出しているのに気づいた。
「何かご存知の方おられませんかあ!何かご存知の方おられませんかあ!」
40歳くらいだろうか、白髪交じりの黒髪を一つに束ね赤のトレーナーにジーパンスタイルという出で立ちで、通りすぎる人たち一人一人に声を掛けながらビラを手渡している。
その顔は傍目にも必死さと悲壮感がうかがえた。
Y子は引き寄せられるようにその女性に近づき、ビラを受け取る。
そして立ち止まると中身に目を通した。
A4の紙に書かれたその内容は、
2年前のこと。18歳の一人娘がこの近辺で消息を断って未だに見つかっていない。それで何か少しでも心当たりある方は連絡くださいというものだった。
S美の件もあったY子は思わずその女性に声をかけ、少し話を聞かせてほしいとお願いした。
二人は駅前広場の片隅にあるベンチに腰掛け互いに自己紹介した後、話しだす。
女性(以下Aさん)は疲れきった顔で、こう切り出した。
「あれは二年前のちょうど初春のころでした。
その年高校を無事卒業し春から就職も決まっていた娘は、上のお姉ちゃんからもらったお下がりのリクルートスーツを持って、朝からクリーニング屋さんに出掛けたんです。
そうです、あそこの【ケンちゃんクリーニング】です。
その後、昼過ぎても娘は帰ってきませんでした。
それで心配になり、あちこち探したのですが見つからず、警察に通報をしたんです。それから警察や地元のボランティアの方々に協力してもらい探してもらったのですが、結局、今日まで娘は見つかっておりません」
─似ている。
Aさんの話を聞いた後、Y子は思った。
S美も【ケンちゃんクリーニング】に出掛けると言って出ていき、未だ帰ってきていない。
Y子はAさんにその日に起こったS美の話をした。
話を聞いた後、Aさんが口を開く。
「娘の時と似てますね。
どちらも【ケンちゃんクリーニング】に行くと言って出掛けて、それからいなくなってる。私ももちろん当時そのクリーニング屋を訪ねたんですが、店主曰くは、約束の期日に仕上げられないという理由で仕事を断ったみたいなんです」
Y子は最後Aさんと連絡先を交換して別れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日になっても、やはりS美がY子の前に姿を現すことはなかった。
やむを得ずY子は警察に通報をする。
昼前にマンションに訪ねてきた刑事に、彼女は昨日の顛末を話した。
Aさんと話したことも。
「洗濯屋けんちゃん」なら知っていますが‥
文章うますぎます。ひきこまれました。