手料理
投稿者:リュウゼツラン (24)
短編
2023/03/10
00:35
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僕の評価は地に落ち、料理云々だけではなく、社内では僕を避ける空気まででき始めていた。
この日も佐藤さんだけは「気にしないで大丈夫ですよ。たまたま虫が入ることもありますよ」と言ってくれたけれど、周囲は僕にそんな優しい言葉をかけてはくれなかった。
恐らく、今まで気づかない内に虫を食べさせられていたんじゃないかという疑念が、僕自身に対する嫌悪感として彼らの中に芽生え始めたのだろう。
そして、僕は包丁が握れなくなった。
料理をするのが怖くなってしまったのだ。
もう嫌だ。料理なんてしたくない。
こんなの、苦痛でしかない。
そんな風に打ち拉がれていた僕を救ってくれたのは佐藤さんだった。
「大丈夫です。私、幸弘さんの料理好きですから」
僕は思わず佐藤さんを抱きしめてしまう。
こんなどうしようもない僕に優しくしてくれるのは彼女だけだ。
セクハラと訴えられてしまうかもしれないけれど、でも僕は今、心から彼女を必要としていて、知らぬ間に彼女は僕にとって最も大事な人間になっていた。
そして、今にも泣いてしまいそうな僕に、彼女は優しく言った。
「これからは私だけの為に料理を作ってくれますよね? 絶対に他の女に食べさせないって約束できますよね?」
なぜか背筋に寒気が走ったけれど、こんな僕を必要としてくれるのであれば、僕は生涯彼女だけの為に料理を作ろうと心に誓った。
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モテない女の戦略怖ぇ…
あーあ