世の中知らない方がいいこともある

私は旅館の清掃員として働いています。

休憩室では仲居さん達とたまに一緒になる時があり、雑談していた時に聞いたお話しです。

仲居さんといえば全国色々なところを渡り歩くように働いていらっしゃる方も多くいます。

今まで勤めて良かった温泉地やその土地に住む方の人柄・美味しかった食事・座敷わらしがでる部屋のある旅館にどうしても泊まってみたくて、お客様として泊まったが座敷わらしのでる部屋には泊まれなくて残念だった事等、色々な話題が飛び交っていてとても賑やかでした。

私も、普段聞けないようなちょっとした旅館やホテルの裏話なども聞けるので、楽しく過ごしていました。

その時、最近新しくはいった仲居さんに、以前勤めていたという旅館ってどんな所だったかという話しになりました。その、最近はいった仲居さんの元の職場は今の職場から10分ほどしか離れていない近距離でしたし、正直、元の職場の方が旅館としては老舗と呼ばれるような所でお給料も今の職場より良さそうなのにどうしてなんだろうという疑問がみんなあったんだと思います。

その仲居さんが言うには、老舗な分、色々と気を付けなきゃならない事も多く、仲居さん同士も派閥がありギスギスしていて仕事がしにくかった事と、お休みの日でも自分が担当の部屋に予約が入ると出勤しなければならず、休日がとりにくい事が原因だと仰っていました。

その流れで、どんな部屋があるかという話題になりました。

私の会社が清掃をまかされている旅館でもあったため、部屋に関しては何度かスタッフ不足でその旅館に駆り出された経験もあるので、どのような造りの部屋かは知っていました。

いくつか素敵な部屋の話しをされた後、最後に、二階の奥まった所にある通路沿いにある三部屋と、二階で一番広い部屋はあまり使えないとお話しされているのを聞き、嫌な予感がしました。

私がその老舗旅館に駆り出されるときは、ほとんど二階の清掃を担当させられていたからです。

そして話題にでた部屋はなんとなく落ち着かなくて、いつも気持ち悪いなぁと思いながら清掃していた部屋ばかりでした。

知らない事の方が良いこともあると分かりながらも、その仲居さんに何故その部屋があまり使われないか聞いてみました。

その仲居さんが言うには二階で一番広い部屋には子供の霊が居着いてしまっているし、奥まった所にある三部屋の内の一部屋では実際人が自殺してしまっていて、よほど忙しい時でなければ使用出来ないようになっているし、残り二部屋はその自殺した部屋の前を通らなくてはならず通路も昼間でも暗いのでなんとなくみんな避けているとの事でした。

ついでに、階段や二階の通路には女性の霊が出没するらしく、私が感じていたよりかなり悪い状態のようです。

その仲居さんや同じ会社のスタッフには、『霊なんて旅館あるあるよ、あんまり気にしちゃ仕事出来ないわよ』と言われましたが、怖がりの私にはもうその老舗旅館に仕事に行ける気がしませんでした。

幸い、忙しい時だけの臨時スタッフとしてお小遣い稼ぎに行っていた程度なので、その後は断り続けました。

ちなみにその後、私のように臨時スタッフとしてその老舗旅館に行っていた何も知らない若いスタッフは、二階通路で女性の霊をバッチリ見てしまい、その日はなんとか仕事をこなしましたが、次からは私同様断りの電話を入れていました。