首吊り林
投稿者:煙巻 (8)
「に、に、逃げるぞ!」
そんな折、Aが俺の腕を引き上げながらそう叫んだ。
三人はAの言葉に促されるように我に返ると、葉っぱで足を滑らせながらその場から一斉に逃げ出した。
初めて死体を見てしまった。
というか、アレは死体だったのか?
それにあの声は誰が何処から発していた?
情報量が多すぎて色々な事が頭の中を駆け巡るが、兎にも角にも今はこの雑木林から抜け出す事が第一だと本能が告げていて、俺は全力疾走していた。
風を切るような速度で茂みを掻き分け枯葉を踏み抜く。
転げそうになりながら緩やかな斜面を滑走していると『ガサガサガサッ』や『ダダダダッ』といった足音が聞こえた。
この時の俺はその足音が友達のものなのか、それ以外のものなのか分からなくて無心で走り続けた。
そんな中、俺は足を滑らせてしまった。
「あっ」と声が漏れたと同時に「うぐッえっ」と喉を絞めつけられる感覚と、痛み、苦しみ、浮遊感を覚えた。
転倒すると思ったのだが、何故か足場が空振りするのだ。
俺は茂みを駆け抜ける際にちょっとした斜面に飛び出してしまったようだ。
そして、その最中で目の前に垂れ下がっていた蔓のようにしなる枝らしきものが首にかかり、体が七十五度くらいの傾きで滑るのと同時に、自重で首を絞めた状態、つまり首を吊った格好になっていた。
幸い宙ぶらりんという事でもなく、緩い斜面で足や背面が斜面と接触しているので完全に首が締まる事は無かったのだが、足場は枯葉が散乱している為、どんなに体を持ち上げようと踏ん張っても足が滑ってその状態から脱出できなかった。
「うっぐ…ふッ…ぬぐ…」って感じで苦しみながら、首周りに食い込んだ蔦らしきものと首の隙間に指を入れ込み何とか自力で隙間を作り、圧迫を避ける。
そして何とか呼吸を確保した俺は精一杯「だ、だれかっ!助けて!し、死ぬ!」と声を張り上げた。
たぶん、上擦ってたし、思ったより声が出てなかったと思うが、何度も助けを求めた。
そしたら何処からか『ボスッ』と枯葉を踏み抜くような音が聞こえた。
『ボスッ』『ボスッ』『ボスッ』と複数回続くと、さすがに何かがおかしい事に気付く。
これは足音なのか?
この音は寧ろ、何かが枯葉の上に落ちたような音に聞こえる。
そう、先ほどの首吊り死体を発見した直前に聞いたような音。
『ボトッ』
今度は俺の腹の上に何かが落ちてきた。
それは俺の腹部に当たり、脇に転がっていった。
懐中電灯を手放した今の状態では何も見えないが、嫌な予感だけはヒシヒシと伝わった。
生憎と月明かりのせいで薄っすらと木々の輪郭や色味程度なら目視できる明るさである。
俺は首が締まらないように必死に蔦を掴みながら頭上を見上げた。
面白かった!!