首吊り林
投稿者:煙巻 (8)
俺が寝そべるようにして見上げた先の木々には、人がぶら下がっているようなシルエットがたくさん見えた。
それらは重みを感じさせる振り子のように『ギシシ…』と音を鳴らしだらりと足を揺らしている。
その中の一体が俺のほぼ真上の木からぶら下がっていた。
早く脱出しなければいけないと思うも、足場が滑るせいで半首吊り状態から中々体を起こせない。
俺がもがき苦しんでいると『ドスッ』とかなり重たいものがすぐ隣に落下する。
俺は「嫌だ嫌だ嫌だ」と心の中で叫ぶが、落下した何かは『ズリ…ズリ…』と枯葉の上を這うような音を立ててこっちに近づいてくる。
「マジで勘弁してくれ…」と泣きそうになりながら俺は誘われるようにそっちに視線を流してしまった。
『すみません、大丈夫ですか?』
俺の目の前に、舌の長い半分目が飛び出した女性が映り込んだ。
蛇のように曲がりくねって伸び切った首の先にはうつ伏せに倒れた女性の胴体が見える。
『すみません、聞こえてますか?』
そこで俺はサーっと意識が引いていき、気を失った。
『すみませーん』
『すみま…ーん』
『すみ………ん…』
雑木林の中で何度も聞こえていた女性の声を聞きながら、気を失った。
目を覚ますと、何故かA達が俺を囲うようにして顔を覗き込んでいて、俺に向けられた懐中電灯が眩しかった。
勢いよく起き上がろうとして立ち眩みみたいになってクラクラとしたが、咄嗟にAが俺の上体を支えてくれる。
「お前、マジで焦ったぞ」
「マジ死んでんのかと思ったわ」
「ビビったわ、マジ」
A達は随分と俺の事を心配している様子だったが、俺には何の事かすぐに理解できなかった。
しかし、すぐに気を失う前に、女性の首吊り死体を見つけて逃げていた事や、その道中で足を滑らせて首を引っ掻け危うく事故死する寸前だった事を思い出す。
慌てて首周りをペタペタと触って確かめるが、何も巻き付いていない。
そんな落ち着かない様子の俺にA達はゆっくりと今の状況を説明してくれた。
A達によれば、走って逃げている最中に俺の叫び声が辛うじて聞こえたらしく、すぐ引き返したそうだ。
それでいつの間にか姿を晦ました俺を探していると、「うぐぐぐ…」という俺の呻吟する声が届いたらしく、ようやく見つけ出した時には斜面で半首吊り状態となった俺を発見し、三人掛かりですぐに引き上げた。
その時、俺には意識が無かったそうだが、悪夢に魘されるようにずっと呻き声を上げ続けるもんだから、三人は俺が幽霊に祟られて昏倒したと焦ったそうだ。
三人から説明を受けた俺は一先ず呼吸も整ったので「助かったわ…」と感慨深くお礼を伝えた。
実際、三人が来なければ意識を失った段階でそのまま自分の自重で緩やかに首が締まり窒息死していた筈だ。
三人は命の恩人である。
面白かった!!