しかし、引っ越した途端、あれだけ次から次へと起こっていた不幸ごとがピタリと止んだといいます。
姉を見て、私が『暗く』、妹が『ホコリだらけ』に、感じたのは、姉がYちゃんの家に遊びに行って帰ってきたときだったのです。
たぶんYちゃんの家の厄災のかけらが、体に付着していたのでしょう。
汚れた場所に足を踏み入れたら、ゴミやホコリがついてしまった、ということかと思います。
私たちきょうだいが、大人になってから、たまたま三人で昔話をしていて、姉が何気なく、そういうことがあったなあ、と言うのを聞いて、私と妹はそこで合点がいったのです。
「凶宅、みたいなものだったのかなあ」
私が言うと、
「でも、Yさんの家族ってずっと前からそうじゃなくて、ある時期から急にってことでしょ、凶宅なら、その家に住んだ瞬間から悪いことが起きるんじゃないの?」
と、妹が首を傾げます。
凶宅とは、不吉な家という意味です。
風水的に良くないとか、鬼門と裏鬼門と相性が悪いとか、霊道が通っているということで、その家に住んでいると禍が降りかかるといわれています。
「なに、キョウタクって?」
霊感もそのテのことにも、まったく無頓着な姉は不思議顔をしていました。
「いや、姉ちゃんは知らなくてもいいけど……ね、Yさんってその家にはずっと前から住んでたの?」
「うーん……Yちゃんが生まれたころから、その家に住んでたって聞いたことはあるけど」
姉がそう言うので、
「じゃ、凶宅ってわけでもないんじゃない?」
「うーん、そうだなあ……」
と、私と妹が頷いていると、姉が痺れを切らしたように、
「だからなんなのよ、キョウタクって!」
と不平を漏らし始めたので、その意味を説明すると、
「そういう話? アンタら、そんなのに、ほんっと詳しいよね」
と顔をしかめます。
「でも、本当にそうだったら、もっと昔から不幸が起きているはずだし、家がどうとかじゃなくて偶然だったんじゃない?」
私が宥めると姉は、そういえば、と思い出したように、
「火事になったとき、お見舞いに行ったけど、ご両親が、せっかく建て直したばかりだったのに、って言ってたような気がする」
と言いました。
「あー、それが原因じゃない? 方角が悪い方に向いちゃったとか、置いちゃいけないところに置いちゃったとか……まあ、お姉ちゃんは何ともなかったんだからいいじゃん、知らんけど」
妹が無責任に言い放つと、姉はまた嫌そうな顔をしました。
Yさんと姉は、いまも友人関係で、家族もみんな元気なようです。
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