父の死後に見る夢
投稿者:我望 (3)
朝、俺は親父の仏壇の前で手を合わせた。
「今更で恥ずかしいんだけど、ごめんなさい、親父」
仏壇の前で喋るなんて思ってた以上に恥ずかしかったが、心はちょっとだけスッキリした。
親父が見せてくれた夢のおかげで心の整理ができたんだ。
感謝しなければならない。
こうして俺は、本当の意味で過去の呪縛から解き放たれたかのように清々しい気持ちになれたのだ。
と、思ってたんだけど、翌年のこと。
俺は毎年親父の命日の前後、都合のつく日には帰省するようにしてるんだが、四年目の時にも夢を見たんだ。
その夢は意外にも、俺の思い出の夢じゃなくて、親父と母親だけが登場してた。
リビングはすごい荒れ果てて、テーブルなんかは倒れ、ソファは部屋の隅に追いやられ、小物は棚から落ちて転がってた。
親父の部屋着はよれよれになってて、いつもはビシッと決めていた髪型も崩れてた。
肩で息をして鬼の形相だった事から、俺はこの夢は俺と喧嘩した後の家の様子なのだと悟った。
親父の背後に、母が恐る恐る歩み寄ってきて「あなた…」と肩にそっと手を宛がう。
しかし、普段あんなに温厚で母思いの親父が母の手を払い除け、キッと睨んでこう言ったのだ。
『やっぱ血は争えんな!』
フー、フー、と歯ぎしりする親父と、震えあがり恐縮する母。
『大きくなってわかった。あれはあのクソ野郎とそっくりだ。あいつも勉強はできなかったし、平気で暴力に訴える奴だったしな!遺伝はどうしようもないな!なあ!』
俺は親父の言ってる意味が分からなくて母を見やるが、母は『ごめんなさい、ごめんなさい』と蹲って泣いていた。
『どうせ俺の子じゃないしな!出ていってくれてせいせいしたよ!』
そう言って、親父はソファを蹴り倒してドカドカと書斎に姿を消した。
そして、残された母は一人、その場に蹲ったままひたすら誰もいない空間で泣き続けていた。
俺は悪夢のような夢から飛び起きた。
尋常じゃない寝汗をかいていたが、それどころじゃないくらいに気が動転していた。
あの夢は何なんだ。
俺は親父の本当の子供じゃないのか。
母は何で何も言い返さずに泣きじゃくっていたんだ。
そういった考えが渦巻くと、途端に実家の自室が全て偽りのモノに見え始めた。
俺は一体誰の子なんだ。
勿論、ただの夢なんだが、これまで、親父の命日で俺の半生のような夢を見て来た事から、どうしても真実味が強く思えてしまう。
だから、俺は朝食を済ませた後、いつものようにリビングで寛いでいる時に思い切って母に聞いてみた。
モヤモヤする話だ
途中まではいい話だった