父の死後に見る夢
投稿者:我望 (3)
不思議な夢だったが、もしかしたら親父が喧嘩別れしたままの俺の為に見せてくれた夢なのかもしれないと思い、俺は頑張って生きていこうと思えた。
それからあっという間に時は過ぎて親父の三回忌がやってきた。
満三年ともなるとだいぶ心も落ち着いてきたのか、悲しさより懐かしさの方が強かった。
慣れたように法要を済ませた俺は、当然仕事を休んで帰省している為、その年も実家に泊まった。
そして、一年ぶりの母と仕事や生活の話、というか殆ど報告に近かったが、意外と話は弾んだ。
そしてその晩、再び俺は親父の夢を見た。
中学の俺は柔道部に所属していたんだが、当時はそこまで体格に恵まれてなかったから個人の一回戦で敗退して落ち込んだものだ。
親父は仕事を休んでまで見に来てくれたのに申し訳なかった。
それでも、俺が試合から帰ってもめそめそしていたらちゃんと叱ってくれたし、まだまだ成長期だからこれから体が出来上がっていくから心配するなと励ましてくれた。
確か、この時から俺は茶碗二杯は食べるようになったんだっけと思い出した。
よく食べて運動して眠る。
そのルーティンのおかげか親父の遺伝か知らないけど、今では平均身長より大きくなった。
それなのに、俺は高校進学後、勉強についていけなくてだんだんと落ちこぼれていき、遅めの反抗期に入った。
あんなに好きだった親父や母親から距離を置き、高校から始めたサッカー部も幽霊部員になって放課後は友達と遊び惚けてた。
家に帰り母から「勉強したの?」と聞かれれば「うっせー」と言い放って自室に戻る。
夕食はムスッとした顔で親父と一緒に飯を食い、一言も話さずに食後は部屋に戻ることが殆どだった。
今思えばどうしてこうなったんだろうと、この頃の俺を怒鳴りたくなる体たらくだ。
親父と喧嘩したのは進路を決めないといけない高校三年の時だった。
親父は俺を大学に進学させて将来困らないように最低限の学歴をつけさせる考えだったが、俺はすぐにでも家を出て働きたいと反発した。
当時の俺はとにかく家を出て自立し、好きな事をしたかったんだ。
親に縛られるのなんて格好悪いと思ってたし、勉強も好きじゃないから大学に行きたくなかった。
そのせいで親父と言い合って初めて取っ組み合いの喧嘩をしたんだが、割といい勝負になってた。
喧嘩といっても俺も親父も辛うじて自制が働いていたからか殴ったりはしなかった。
その代わり相撲みたいに投げ飛ばしたりひっくり返したり突き飛ばしたりしたから、家の中の家具がめちゃくちゃになった。
それで俺は「こんな家出てってやる」という定番の台詞を吐いて家を飛び出したんだけど、玄関を出た所でリビングの方から「塩撒け!塩!」と親父の方も定番の台詞を吐いてた。
こうして当時のやりとりを俯瞰で見ればクスっとすると思いつつも、この時の親父はまだ元気そうだなとも感じて、ちょっとしんみりした。
それで、高校生の俺が家を出て泊まり歩く生活なんてできる筈もなく、友達の家で一泊した翌日には恥ずかしながら家に戻った。
親父はすげえ怒ってたが固く結んだ口を開く事もなく、俺もそんな親父に一言も謝ることもせず、家庭内別居みたいな状態が高校卒業まで続き、俺は卒業と同時に友人の伝手で決まった工場で働く為、家を出たんだ。
懐かしい夢だった。
三回忌だからか、なんか一気に俺の半生を見せられたようで新鮮だった。
その分、やっぱり親父は俺が謝るのを待ってたんじゃないかと思えた。
きっと親父は、俺が親父譲りで強情な事を知ってるから、こうして夢を見せて俺と親父が仲が良かった時のことを思い出して欲しかったんじゃないかと思った。
モヤモヤする話だ
途中まではいい話だった