消えたサ〇ダくん
投稿者:isola (3)
そんな折、B君の次にサ〇ダくんを強く虐めていた、仮にY君としましょう。
Y君はサ〇ダくんの上履きや椅子の上に画鋲を仕込んで怪我をさせて楽しんでいたのです。
その時も私は休憩中にたまたま手洗い場で血のついた靴下を洗うサ〇ダくんと遭遇してしまい、同じように「ねえ、先生に虐められてること言ったほうがよくない?」とお節介な事を言いました。
そして、やっぱりサ〇ダくんは不敵に笑みを浮かべながら「ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから」と呪文のように繰り返すのです。
私は気味が悪くなってすぐにその場から遠ざかりましたが、何となくB君の事を思い出して後味の悪さを覚えました。
そして、その予感は的中。
Y君の家が火事で全焼したらしく、Y君は顔に重度の火傷を負ってしまったそうで、しばらく入院した後に転校していきました。
同じクラスから二人も悲惨な事故を体験する者が出てしまったせいか、クラスでは『サ〇ダくんの呪い』なんて言い出す人も居ました。
ですが、それでもサ〇ダくんのイジメはなくなりませんし、誰もサ〇ダくんを助ける事はしなかったのです。
サ〇ダくんを虐めてる男子は格好がつかないから。
見て見ぬフリをしている女子は巻き込まれたくないから。
私も後者でしたが、男子達のイジメはB君とY君と立て続けに事故が起きている事が関係しているのか、ちょっと弱まったように思えました。
それでも、肩パンとかの直接的な暴力や罵詈雑言が無くなっただけで、陰口はあるし、私物を隠したりと陰湿な方向に切り替えしたにすぎず、根本的なイジメは無くなりませんでした。
気付けばクラスにとってサ〇ダくんは『存在しない人』になっていて、プリント配布とかグループ作業の時でも必要最低限接触しなければいけない時だけ会話をし、それ以外は一切サ〇ダくんと喋る事を禁じる、暗黙のルールが出来たのです。
そんなサ〇ダくんを不憫には思っていましたが、集団心理が働いて誰もがサ〇ダくんを無視していました。
そんなある日の放課後、私はたまたま教室に忘れ物をして取りに戻ったのですが、開きっぱなしの教室のドアから中を覗けば、教室の後ろ、花瓶の目の前で一人壁に向かって佇むサ〇ダくんを見つけてドキッとしました。
なんでそんな所で突っ立っているのか分かりませんが、恐る恐る自分の机に掛けてあった手提げ袋を回収して黙って教室を出ようとした所、意識がサ〇ダくんに向かいすぎたせいで足を椅子にぶつけて音を立ててしまったのです。
ガタッと音が鳴ると同時にサ〇ダくんが無機質な顔を振り向かせます。
私は「あ、あはは」と苦笑いしつつ、サ〇ダくんに向き直り、またまた余計な事を喋ってしまいました。
「さ、さみしくない?大丈夫?」
するとサ〇ダくんは大きく間を空けてから「ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから」と無表情で言い放ちました。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから。ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから。ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから。ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから。ダイジョウブ、ダイジョウブ、もう消えるから」
まるで壊れた玩具のように何度も何度も顔色一つ変えずに繰り返すサ〇ダくんが怖くて、私は教室から飛び出しました。
もしかしたら私の一言がサ〇ダくんを傷付けてしまったんじゃないかと、家に帰ってから気掛かりでしたが、あの生気を感じさせない表情で淡々と機械のように台詞を喋るサ〇ダくんを思い出す度に震えが止まりませんでした。
ですが、その一方でサ〇ダくんはB君とY君が事故に遭う前日にも同じことを言っていた事を思い出し、明日誰かが事故に遭うんじゃと一気に血の気が引きました。
今はもう彼等のようにサ〇ダくんを直接イジメる人は居ませんが、もしかしたらこれまでのうっ憤を晴らすように誰かが犠牲になるかもしれない。
そう思うと「誰が?」「あの子が?」「私じゃないよね」という不安が募ってその晩はよく眠れませんでした。
そして、翌朝。
意外にもホームルームを過ぎても特に何も起きてはいないようでした。
いつもの風景。
欠席者の連絡もない、平和な朝。
でも何かがおかしいのです。
不思議なはなしですね。
最後の、だいじょぶ、だいじょぶ、消えるからは、先生も含めて、みんなの記憶が消えると言う意味も考えられませんか?
なるほど、それはそれで怖い
なるほど、確かにそうですね。