一番奥のトイレ
投稿者:isola (3)
私の学校にも独自の怪談が存在していました。
ありきたりな音楽室のベートーヴェン。
魔の十三階段。
私の世代では二宮金次郎像は無かったので、よく分からない偉人なのかさえ怪しい銅像が深夜に動き出すとも言われていました。
そんな怪談の中でも特に話題に上がったのが『一番奥のトイレ』でした。
ただ、一番奥がどの階の男女どちらのトイレを差しているのかは分からなくて、適当に怪談話が広まったのだろうとほとんどの生徒がそう解釈していました。
そんな中でも移動教室の際に使う西棟の二階、左側の女子トイレ。
その一番奥の個室に幽霊が出るともっぱらの噂が立っていて、噂の効果なのか、私の学年ではそこのトイレは使用しない暗黙のルールがありました。
たぶん、内心では皆嘘だとは思いつつも、実際に一人で使用する勇気が無かったのだと思います。
それに西棟は移動教室や部活動以外で使用する生徒も居ないので、そもそも使用する機会が少ないのです。
ある日、私は授業中に腹痛に襲われて恥ずかしながらトイレに立ちました。
トイレに行くと公言するのは恥ずかしかったので、体調が悪いので保健室に行くと嘘をつきましたが。
それで、廊下に出てトイレに直行しようと思ったのですが、実はこの時移動教室で西棟を利用していたのでこのままトイレに行けば最悪誰かと出くわす恐れがあると思い、一つ階を移そうと思ったのです。
まあ、体調不良を申告した手前、どのみち本校舎の保健室には行くつもりなので、目に付いたトイレを使えばいいんですけど、お腹の張り具合が限界で教室から一つ下の階のトイレに駆け込みました。
そして、駆け込んですぐにそこが噂の『個室』があるトイレだと思いだしたのです。
お腹の限界が近かったので手前の個室に入って用を済ませた後で気付きました。
それで、ちょうど流し終えたところでカチャリと音が聞こえました。
(ああ、誰か入ってきた。最悪。臭いしないかな)
なんて考えて少し焦ってしまいましたが、足音が聞こえなかったので妙な感じを覚えました。
不思議に思い個室の扉の下の隙間を眺めていると、女子の上履きが歩いているのが見えたので「あ、やっぱ誰か来たんだ」と思いました。
ですが、その上履きは私の個室の前で向き直ると、何故か扉を『コン、コン』とノックするのです。
私が入る個室以外は開いているのに、何故か唯一締まっている此処をノックする意味が分からない。
もしかして、個室に入っている私を揶揄っているのかと懐疑的に思いましたが、黙っていると上履きは再び奥へ歩いていきました。
(ノック返したほうがよかったかな)
と、思ったのですが、暫くじっと固まっていると、たぶんですが、何個か隣の個室の扉が閉まる『ガタン』という音が聞こえたので、上履きの主は個室に入ったと思い、私は入れ替わるように個室から立ち去ろうと鍵に手を掛けました。
『ガコッ』と少し大きめな音が鳴ったので気付かれたかななんて変な緊張もしましたが、扉を開けようとした際に自分の視界に影が差したのです。
おかしいなと思って上を見ると、個室の壁の上から口許を歪ませて大きく目を見開いた女の人が私を見下ろしていました。
「きゃあああああああ!」と私が絶叫したところまでは覚えていますが、どうやら私は気を失ったらしく、私の悲鳴を聞きつけた女性の先生と先生に付いてきた野次馬の女生徒が数名私を覗き込んで「大丈夫?」と声を掛けている場面で目を覚ましました。
一瞬、なんでこんなに人が集まってるのか分からなかったのですが、女の先生は「大丈夫?すごい悲鳴だったけど、何があったの?」と言っていました。
先生の一言で我に返った私はすぐに個室の天井を見上げましたが、当然ながら、そこには誰も居ませんでした。
なにげに怖いぞこの話
眠れなくなりそう
トイレにもういけないよー