2階に上がってはいけない
投稿者:ねこじろう (147)
妹は真剣な眼差しでボソリと呟くと、俺の服の袖を引っ張り、震える指先で部屋の一点を指差した。
見るとそこは窓から左に少し離れたところの、ちょうど部屋の角辺り。
一瞬で背筋が総毛立った。
光はあまり届いておらず薄暗かったが、そこには間違いないなく何かがいた。
よく見ると、そいつは黄金色の体毛に覆われた巨体を壁に預け、獣の足を投げ出して座っている。
足先には指ではなく、黒い蹄みたいなものが付いていた。
ただ手先には人間と同じ指があるようだ。
そいつの傍らの床には、茶碗や皿などの食器が乗せられた朱塗りのお盆が置かれていた。
そしていよいよその顔に視線を移した瞬間、俺は思わず声を漏らした。
「じ、じいちゃん!?」
毛むくじゃらになってはいたが、その顔は以前仏間で見たじいちゃんの写真の顔と似ていた。
「ウウウウ、、、オオオオ、、、」
そいつは俺たちに気付いたみたいで、低い呻き声をあげながら体を動かし四つ足で立ち上がると、猪のようにこちらに向かって走りだした。
「キャー!!」
妹が突然悲鳴をあげ、逃げ出す。
俺もあとに続いた。
2人ドタバタと廊下を走る。
「オオオオ!アアアアアア!オオオオ、、」
叫び声とも泣き声ともつかない声と共に、ドンドンという何かを強く叩く音が背後から聞こえていた。
俺たちは転がるようにしながら階段を下まで駆け降りて廊下を走り、元いた仏間に戻ると襖をピシャリと閉めた。
泣き声と叫び声の混じった声は、しばらく聞こえていたが、やがて止んだ。
後から妹には、さっきのことは2人だけの秘密だぞと強く言った。
彼女は怯えた表情をしながら大きく頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから時は過ぎ俺は無事高校を卒業し、推薦で合格した大学へ進学するため、東京のアパートに移り住んだ。
今はそこで一人暮らしながらバイトに学校にと、充実した学生生活を送っていた。
時折、不定期に実家の母から電話があったりする。
内容はほとんど俺の安否確認なのだが、電話を切った後ふと、まだ2階のあの部屋には【あれ】はいるのだろうか?
それとも?、、、
と考えたりすることがある。
洒落怖のリゾートバイトを思い出しました
子供には,正直言わなと後々後悔すんのは、親御さんだぜ