罪と罰
投稿者:take (96)
彼女に同情したり憐れんだりしてはいけない。
理香先輩が心の中で、本の題名を言い当ててしまっただけで、彼女に伝わってしまったのです。
私の胸の内なんて筒抜けになってしまうのでしょう。
だから私の足はおのずと図書室から遠のいていきました。
読みたい本があれば、貸し出しを受けるようにして、図書室で本を読むことはしなくなりました。
図書室で授業のある場合は、できるだけ彼女が座っている場所から離れ、視界に入れないようにしました。
彼女に私の心の中がわかってしまったら、なにか悪いことが起きるかもしれない、という恐れもありましたが、それ以上に、彼女に干渉してしまっては申し訳ないと思ったからです。
彼女は私が卒業するまで『罪と罰』を読み続けていました。
そして私が卒業して15年近くの月日が流れました。
今も彼女は西陽の当たるあの長椅子に座って、本を読み続けているのでしょうか。
見えない目で読み続けなければならない、彼女の罪とはなんなのでしょうか。
高校生の頃は、同じ年齢の彼女がそれほどの罰を受けなければならない理不尽に憤りを感じもしました。
そして大人になった今では、まだまだ子供といえる年齢の少女がとても憐れで可哀想でならないのです。
しかし、理香先輩が言った『苦しむこともまた才能のひとつである』という言葉は、絶望の中にも焼けつくように快感がある、と続いています。
苦しみを知っているからこそ、希望を持つこともできるということであれば、いつか彼女は苦しみから解放されるのかもしれません。
そうあって欲しいと願っています。
なんだか美しい話ですね