「嘘松!」「嘘松!」これも「嘘松!」っと…。
仕事は面白くないし、特に趣味なんて無い俺は、いつしかネットのつまらない書き込みに「嘘松」と書き込むのが習慣になっていた。
<古い軽に俺と父で乗っていたら後ろからあおり運転をされた。その車は俺の車を強引に追い抜いて急ブレーキで止まると、俺も止まるしかなかった。父は車を降りて車に向かって歩いて行き、窓越しに運転手に二言三言話しかけると、その車は逃げるように去って行った。なぜなら、父はいかにも『組員』といった見た目だったから。父は本当は優しい性格なんですけどね。>
そんなわけあるか。人の見た目だけでビビってるようなやつがあおり運転なんかするはずがない。よって嘘松!
<学校帰りに、いつも俺をイジメてくる3人に囲まれカツアゲされそうになった。後ろから背中を蹴られた時に俺の何かのスイッチが入った。師範である父からは禁止されているが、実は空手5段の俺はその3人を血祭りにあげた。それ以来イジメはなくなった。>
そもそも空手をやってるような奴は見た目でわかるからイジメられるわけがない。よって嘘松!
こんな具合に、俺はどうしようもない嘘を見抜くわけだ。
それを「嘘松認定士」などと揶揄する人もいるが、こんなあからさまな嘘を書き連ねる連中の方がおかしいのだ。
だから、俺は啓発する意味でも「嘘松」と書き込んでいる。いくらネットと言えども、嘘を書き込む事は許されないのだ。
それは、ある日の仕事帰りの事だった。
乗り換えターミナルのH駅で降りて散歩がてら電気屋にでも行こうとすると、途中の道路が緊急の工事で通れなくなっていた。
仕方無く裏路地に迂回して遠回りせざるを得なかった。
その路地は車が少なく、まるで歩行者専用道路といった雰囲気だった。
あまり通った事がない道だが、ここは確か、何かの勧誘とか占い師とかが何人もいると聞いたことがある。
そんな事を思い出しながら真っすぐ歩いていると、後ろから
「ちょっとすいません」
と女性の声が聞こえたが、自分の事だとは気が付かなかった。
「ちょっとすいません、今お時間いいですか?」
女は自分に気が付いていないと思ったのか、小走りで俺を追い抜いて行く手を阻んだ。
歳は20代前半くらいだろうか、身長は150センチくらいの、どこにでもいそうな女子大生のような雰囲気の女だ。
「よかった。ちょっとだけお話を…。」
「な、何ですか?あなた。」
立ち止まった俺は女にこう言うと、
「すいません、あなたに悪い『気』のような物が見えたものですから、それを教えたくて…。」
ああ、この女は宗教の勧誘だろう。この路地を歩いていると何かに勧誘されるという話はどうやら本当のようだ。
「すいません、先を急いでますので。」
女を避けて歩こうとすると、女も同じ方向に動いて邪魔をしてきた。
「何かの勧誘だったらお断りですよ。」
俺はちょっと強めにそう言うと、
「いや、そんなんじゃないんです。そんなんじゃないんです。」
数年前に、これと少し似た話を書き込んだことがあるので、もしかしたらそれを読んだ方がいるかもしれません。その時は占い師ではなく、喪●福蔵でしたが。
作者より
ネット廃民ほどおもろい滑稽な存在はいない