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不思議体験

寇さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

頭を打ったら変な世界に迷い込んだ
長編 2023/01/01 08:03 26,531view
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『どうしたんだい』

如何にも胡散臭い言葉使いだった。
年の頃は六十代だろうか。
全体的に暗い事を除けば、何処にでもいそうなおじさんに思えるが、感情が見えない表情のせいで幽霊とでも出会ってしまったように俺は硬直してしまった。

『どこの子だい』
『こんなところでどうしたんだい』
『どれ、おじさんがつれてってあげよう』

俺が緊張で強張っていると、自称おじさんを語るその人は一人で喋り出し、俺の腕を取ろうと前に躍り出た。
その瞬間、おじさんの手が俺の手を掠め取るより早く、俺は後ろに切り返して逃げ出していた。
その際にも後ろからおじさんが何かを言っていたように聞こえたが、俺は無我夢中でおじさんから距離を取った。

他にまともそうな人は居ないだろうか。
走りながら町を見渡していると、町の一角に田園風景が広がって見えたのでそっち方面に走り抜ける。
すると、田んぼの一つに人影が突っ立ってるのが見えたので、そこを目指した。
一瞬、案山子でも立ってるのかと危惧したが、近づけば腰の曲がった老人だと分かり、「す、すみません!」とヒーヒー言いながら声を掛けた。

田んぼの外側で立ち止まり、膝をついて息を整えていると、老人がこっちに近づいてくる。
一先ず、交番の場所を聞こう。
そう思って老人が来るのを待っていると、その老人の手に鎌が握られている。
いや、農作業中だから別に不自然ではないんだけど、どうにも嫌な予感がした。
今日ほど第六感が働いた日は無いと断言できる程に、俺の本能が逃げるように言ってきた。

『めずらしいね、どこの子だい』

老人が徐に鎌を振り上げた所で、俺は立ちあがって走り出した。

近くでみればやっぱり老人も日陰に入ったように暗かったんだ。
そして、さっきのおじさんと同様に能面を張り付けたような不気味な顔をしていた。

この町にまともな人はないのかと辺りを見渡しながら走っていると、昭和でよく見かけた町角のタバコ屋みたいな店が目に入った。
半開きの窓の奥には老婆が座っていて、俺は今度はそのタバコ屋の老婆を目指して走った。
今度こそまともな人でありますようにと願っていたが、やはり顔を肉眼でとらえられる距離まで近づけば、その老婆の顔も能面のように生気の無い顔をしていて、俺はすぐに踵を返し、その辺の路地に逃げ込んだ。

この町はどうなってるんだ。
人が居ないと思いきや出会う人全員が能面をつけたような似通った顔をしていて、それでいて全員が日陰に入ったように暗く見える。

もしかして夢なのか?

息苦しさも、脈打つ鼓動もはっきりと感じられるが、俺はこれがリアルな夢の世界だと疑い始めた。
だって、さっきまで遊んでたのに、こんな荒唐無稽な町に居るとか意味が分からない。

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コメント(3)
  • 勿論あの世に連れて行かれるを指しているじゃないかな。

    2023/01/01/13:39
  • こういう話大好物だ

    2023/01/18/18:43
  • 良い、わくわくした

    2023/02/13/15:31

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