頭を打ったら変な世界に迷い込んだ
投稿者:寇 (4)
そんなことを考えていると、夕焼け空は更に落ちてきて、いよいよ夜に染まっていく。
何故か完全に暗くなる前にこの町から抜け出さなければいけないという気持ちが湧いてきて、俺は路地から大通りを確かめた。
と言っても、どうやってこの夢から抜け出せばいいのかさえ分からなかったので、人が居ない事を確かめた上で道路をトボトボとさ迷う事しかできなかった。
それで、当てもなくさ迷っていると、急に「キーンコーンカーンコーン」てな感じでチャイムが鳴り響いた。
音だけでビビったが、チャイムを合図に急に町中が騒がしくなったと思って路地に隠れて大通りを覗いていれば、今までどこに隠れていたのか、黒い集団がこぞって大通りを移動していた。
不思議なのが既に日が沈んでいるのに、町には電灯が点いていない。
そのせいで元々暗く見えていた町の人々は、余計に黒く見えた。
それでもよく見れば全員が似通った能面顔である事だけは分かったから、俺は息を潜めて奴らに見つからないようにじっとしていた。
チャイムが鳴り終わる頃にはその集団は何処か一カ所を目指して去っていった。
俺はどこぞの家の塀の影で不貞腐れるように座り込み、いつこの夢が覚めてくれるのかと切に願った。
お腹もすいた。
それに現実と変わらない肌寒さもある。
親に会いたい気持ちも強くなって、涙が出て来た。
そんな時だった。
『どうしたの、ボク』
不意に声を掛けられた。
顔を上げると、塀から覗き込むようにして、能面顔のおばさんが俺の事を見ていた。
「うわあああッ」
俺はすぐさま逃げ出した。
この町の人間は全員あの能面顔なのか?
それともただ単に能面を付けているのか?
分からないが、当時小学生の俺にとっては奴等の能面顔は恐怖そのもので、泣きながら逃げ出した。
勢いのまま大通りに出れば、能面顔の人がちらほら佇んでいた。
それで、俺に気付くなり一斉に振り返ると、
『こっちにきなさい』
『らくになるから』
『さあさあさあ』
と、全員が俺に手を差し伸べてくる。
勿論、俺は悲鳴を上げながら逃げ出したんだけど、夕方とは打って変わって、夜の町中には何処に行っても能面顔の人が出歩いていた。
街灯がないから中にはぶつかったりもしたが、奴らは痛いとかそういう感覚的な発言よりも先に『どこの子だい』とか『さあいっしょにいこう』と執拗に俺を誘うような言動を取る。
勿論あの世に連れて行かれるを指しているじゃないかな。
こういう話大好物だ
良い、わくわくした