賃貸の一軒家に引っ越した結果
投稿者:N (13)
子供が生まれるのを機に狭いアパートから知り合いの伝手で賃貸だが一軒家を貸してもらって住むことになった。
将来、子供が成長した時の予行練習には有難い話で、少し築年数はいってるが水回りはリフォームされていて暮らすには不便はない。
家賃に関してもそこらのマンションを借りるよりかは遥かに安く、貯金も出来てまさに至れり尽くせりだった。
「将来はこんな感じのマイホームがいいな」
荷ほどきをしながら新生活に浮足立っていると、赤ん坊を抱いて揺り篭のように揺らしている妻が笑っているのを見て、俺はこれが幸せか…なんて臭い事を思ってた。
新生活が始まって一週間もしない頃だった。
ある日、仕事から帰宅すると妻が赤ちゃんを抱き抱えたままリビングのソファに微動だせずに座り込んでいたのを見てぎょっとした。
電気が点いてなかったからどうしたんだろとは思っていたが、点灯と同時にそんな光景が飛び込んでくるものだから心臓が飛び出るかと思った。
「どうした?」
もしかして体調が悪いのかと思い、鞄を放り投げて駈け寄れば、妻は今俺の存在に気が付いたのか、「あ、ああ、帰ってたの?」と虚ろな目で見上げて来た。
「何があった?顔色悪いよ?」
妻の背中を擦り、スヤスヤと眠る赤ん坊の顔を見下ろす。
まさか育児疲れか?
しかし、今仕事を休む訳には…。
そんな言い訳が脳内を過ったが、妻は「ああ、ご飯作るね」と赤ん坊を俺に預けて立ち上がり、ふらふらとキッチンに歩いて行った。
「俺が作るよ、妻子(妻)は休んでていいから、ね?」
俺がそう迫ると、妻は「じゃあ、身の回りのことやるね」と食器とか道具を用意してくれた。
ただ、やっぱり妻の顔色が悪くて料理中も気が気じゃなかった。
その晩、二階の寝室で家族三人並んで寝ていると、妙に寝つきが悪く深夜に起きてしまった。
因みに赤ん坊はベッド脇にベビーベッドが置いてあるので、そこで寝かしつけている。
それで、水を飲もうとベッドから起きると、隣に妻が居ない事に気が付いた。
「あれ?妻子?」
何となく名前を呼ぶと、何処からか「……夫君(俺)」と妻の課細い声が聞こえたので、ドキッとしながら部屋を見渡した。
すると、クローゼットの反対側の部屋の隅に妻が体育座りする形で丸くなっているのを見て、ホラー映画かと思った。
「…何してんの、そんなとこで」
「…ちょっと、怖い夢を見て」
妻はそう言った後、ブツブツと何かを呟いたまま顔を伏せた。
まるで意味が分からなかったが、やはりこれが育児疲れによる症状なのかもしれないと思い、俺は「み、水持ってくる」と慌てて部屋を出た。
うちの赤ん坊はそんなに夜泣きもしないから寝不足ではないと思うが、俺が日中仕事をしている間は手がかかる事があるのかもしれない。
上司に無理行って育児休暇を取るか、時々有休が使えないか頼み込んでみよう。
いや怖いよ