魂が入り込んだ人形
投稿者:ぴ (414)
それは生前とまったく変わらない元気そうな姿でした。
「遊ぼう」と誘われて、私は沙紀ちゃんと手を繋いで外に出ました。
私と沙紀ちゃんはずっと外でおしゃべりしたり、走り回って遊びました。
以前は体が弱かった沙紀ちゃんに合わせて、折り紙や絵を書いて遊ぶことが多かったのです。
しかし、その日は外で走り回って遊びました。
時折私が「体は大丈夫?」と聞くと、沙紀ちゃんは嬉しそうに「前よりも動けるし走れるの」と笑っていました。
夢みたいだなと思っていたのです。
また会えるなんて思わなくて、本当に夢みたいな体験をしたと思いました。
幸せな気分で私は目を覚ましました。
そう目を覚ましたのです。
それは本当に夢でした。
起きて沙紀ちゃんはもう亡くなっているんだと現実を突きつけられ、涙が出そうでした。
しかし、私は起きて寂しさ以上に恐怖を感じました。
なぜなら私の布団の中で何かがごそっと動いた気がして布団をめくったら、そこに人形がいたからです。
沙紀ちゃんのお母さんがずっと大事そうに抱いていたあの市松人形が、いつの間にか私の布団の中に忍び込んでいたのでした。
思わず「きゃー」って叫んだら、両脇の父と母が目を覚ましました。
父も母も朝までぐっすり眠っていたらしいし、私もいつの間にか眠っていました。
最後まで誰がここに人形を持ってきたのか分からなかったです。
沙紀ちゃんの母にその人形を返すときに、どう反応されるかと気をもんでいたのですが「きっと沙紀があなたに会いたがったのね」と嬉しそうに言われました。
沙紀ちゃんのお母さんは心を病んでその人形をずっと沙紀ちゃんだと思っているらしいです。
私はそれを聞いて、本当に沙紀ちゃんかもしれないと思ってしまいました。
あの夢の中で沙紀ちゃんと遊んだ日に、私は色付き鬼で沙紀ちゃんが派手にこけるのを見ました。
足のすねと腕に擦り傷ができてしまったのです。
その擦り傷のような汚れが布団に忍び込んできた人形の足と腕の同じ場所にありました。
これを見てさすがに偶然とは言い難かったです。
私はあれはただの夢じゃないと今でも思っています。
夢の沙紀ちゃんは今はすごく元気で、病弱じゃなくなったし、外で走り回れるようになったと喜んでいました。
もしかしたらあの人形には沙紀ちゃんの魂が入り込んでいるのかもしれないと思いました。
それからしばらくして、沙紀ちゃんのお母さんは沙紀ちゃんの後を追うように、亡くなりました。
急性心筋梗塞だったと聞きます。
元気を取り戻せないお母さんを不便に思ったのかもしれないですね。