すると玄関の呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると、そこにはジャージ姿の初老の男が立っている。
アパートの大家だった。
「朝からすみませんねぇ。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
頷くと、大家は申し訳なさそうに頭をかきながら話し続ける。
「実はお隣のTさんのことなんですが、何度となく呼び鈴を鳴らすのですが出てこられないんですよ。恐らく不在にされているのだと思うのですが、前月の家賃滞納されてるんですよ。
会社の方からも度々問い合わせがありまして、それで私らもちょっと困ってるんですわ。
何かご存知ないですかね?
先週は二つ隣のSさんにもお聞きしたのですが、知らないということだったんですわ」
「ええ私も長く部屋を空けられているのは、気付いてました。ただ消息については申し訳ないのですが、分かりません」
俺は正直に答えた。
大家はしばらく腕組みして考えている様子だったが、やがて、
「分かりました。
もし何かありましたら、私の方に連絡ください」
と言い、連絡先を書いたメモを俺に手渡すと立ち去った。
この後またしばらくソファーで寛いていた俺は、近くのコンビニに昼御飯でも買いに行こうと部屋を出た。
渡り廊下を真っ直ぐに歩く途中、何とはなしに気になり、Sの部屋の呼び鈴を鳴らしてみる。
返事はない。
ドアノブを回してみると、ドアは容易に開いた。
彼ともしばらく会っていなかったから、俺はドアの隙間から声をかけてみた。
「おい、Sいるか!?」
玄関口に、いつも履いているスニーカーとサンダルが一つずつあるのが見える。
不審に思った俺はドアを開けると、奥の部屋に向かってもう一度声をかけてみた。
「おい、S!?」
やはり返事がない。
何故だろう胸の中が妙にざわつく。
いけないこととは思いながら俺は靴を脱ぎ廊下に上がると、真っ直ぐ奥に進んでドアを開く。
何も置かれていないダイニングテーブル、
画面が真っ暗な液晶テレビ、
誰もいないソファー。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。