あぜ道の腕
投稿者:ぴ (414)
長編
2022/11/15
17:27
3,714view
しかし、振り向くとすぐそこにあの男がいて私の腕に強い力でしがみつくのです。
掴む力があまりに強くて、痛すぎて「離して」と必死に抗いました。
でも男の力には抵抗できず、私はぎゅうぎゅうと腕を締め上げられました。
そのまま、もぎ取られるかと思うくらいに痛かったです。
思わず腕を持っていかれると恐怖を感じたときに、私は「まだ死にたくない」と思いました。
まだ生きていたいし、もっと長生きしたいと思いました。
実は都会の生活に疲れて、少しだけ死を考えていたのです。
少し鬱状態だったこともあり、自殺することもこれからの人生の選択肢にありました。
しかし、腕を根こそぎ持っていかれそうな恐怖に駆られたときに、生きたいと思いました。
残された渾身の力で男を突飛ばし、私は必死になってあぜ道から逃げ出したのです。
今私は資格を取得して、田舎の診療所で医療事務員として密やかに穏やかに働いています。
やっぱり都会よりは田舎暮らしが私には合っているようです。
たまにあのあぜ道の近くを車で通りかかることがあり、たまにあの男を見かけることがあります。
でも今は見ても見なかったフリをします。
ああいうものには近づかないのが一番と、身に染みて学びました。
前のページ
4/4
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 12票
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。