推し活
投稿者:サクコウ (15)
数年前、同じマンションの上の階に住む主婦仲間のA子と一緒に、スポーツ選手Bを応援していた。
ウィンタースポーツで、ジャンプのある競技。Bは一時期は国内では負けナシだったけれど、ある時からジャンプが決まらず勝てなくなっていった。私はその時点で熱が冷めていったんだけど、なぜかA子が引きずられるようにおかしくなっていった。
「彼のジャンプが成功しないのは、私たちの応援が足りないせい!」って言って、マンションの一室に祭壇を作って、部屋の壁をBのグッズのクリアファイルや雑誌の切り抜きやらの写真で埋め尽くした。年に1~2回だった遠征やイベントの参戦もどんどん頻度が高くなっていったみたい。大人しい人だったのにSNSでもトラブルを起こして、私は仕事を始めた事もあり、この時点でA子と距離を置いた。
ある日、上階からドタドタという音が聞こえた。この頃はA子夫婦は毎晩のように喧嘩をしていて、大きい物音は珍しくなかった。
音は段々激しくなっていって、とうとうA子旦那の「やめろ!!」という怒鳴り声が聞こえた。尋常じゃない雰囲気にベランダの窓を開ける。
すぐ上から「じゃんぷ、とべるよおー――――」というA子の明るい声が聞こえた。
彼女が逆さまに落ちてきた。
逆さまのA子の頭が、うちのベランダの手すりにバウンドして、ガチン!!!という音、ニヤニヤした表情の逆さまのA子と目が合った。
そのまま彼女は落ちて、帰らぬ人となった。
なぜあそこまで、会って話せる訳でもない相手にA子が入れ込んだのかわからない。
もちろんマンションには住み続けられるわけもなく、今は別の町で暮らしている。
あの逆さまの目が忘れられない。たぶん一生、忘れられないと思う。
推し活も、ほどほどに。