小さな赤いスニーカー
投稿者:サクコウ (15)
これは知り合いの看護師さんから聞いた話である。
ここではその人をYさんと呼ぼう。今でこそ勤続15年のベテランだけど、彼女がまだ二十代前半の新米看護師だった頃の体験談。
勤務先の病院は一階が外来受付・診察で、二階は入院用の病室が並んでいる。
だから一階は昼間はたくさんの人で混雑しているけれど、夜中はしんと静まり返っている。物音がすれば結構響く。
その日Yさんは夜勤だった。
夜中の1時頃、見回りのため二階にある休憩室を出てライトを照らしながら階段を下りる。
すると一階から、パタパタパタ…と走り回るような音が聞こえる。
思わず、身を固くする。不審者が侵入したのか。
だけどよく聞くと、その足音は軽い。きっと子供の入院患者が病室を抜け出して遊んでいるんだろう。
そう判断した彼女は音の聞こえる受付の方へ向かう。
受付カウンターの前に裏返しに放り出された片方だけの赤いスニーカーが落ちていた。赤いキャンバスに白い靴ひもの、小さくてかわいいスニーカー。
なんでこんなところに?拾い上げようとその靴に触れた瞬間、Yさんは意識を失った。
その数日後、彼女は仕事を終えて帰宅していた。
結局あの日は受付の前で気絶していたところを同僚に起こされたのだけれど、確かに見たと思ったスニーカーは消えていた。あれはいったい何だったんだろう…。そんな風に考えながら大通りを歩いていると、突然、後ろからドン!と大きな音した。
驚いて振り返ると、電柱に突っ込んでフロントがぐちゃぐちゃになった車と、その車に轢かれたとおぼしき子供が倒れている。慌てて駆け寄ると子供はうつ伏せに倒れ、首はあさっての方向に折れ曲がっている。
(あ、もうだめだ)そう思ってふと見ると、その子が履いていたのか、赤いスニーカーが落ちている。
あの日見たのとおんなじに、白い靴ひもの小さな赤いスニーカーが、裏返って落ちていた。
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