お局様の霊魂

これは、私が働いていたパン屋での人生初の不思議な少し怖ーい体験である。

その日も、私は、遅番の時間に合わせて12時10分前頃に店に出勤。「おはようございます！」と厨房を抜けてお店に出る。すると、今日も不機嫌そうにお局様さまが品出しをしていた。彼女は、職場では有名なくせ者、正直同じシフトの日は憂鬱だった…。

「じゃ、お昼行って来ます。」私への挨拶などそこそこに彼女がお昼へ。

しかし、今日起こる恐怖体験は、まさにそこからが始まりだった…。彼女から品出しを引き継ぎ、お店でパンの品出しを始める、昼時ともなればパンは山のように出てくる。種類豊富なパンをなんとか並べてカウンター裏へと戻る。しかし、居るはずもないお局様の笑い声…声の聞こえたレジの方へ目を向けると、お昼に行ったはずの彼女が有り得ない場所からすり抜けて、こちら側へ腰をかがめて入ってくる…。(いやいや、あの位置からじゃ幽霊でもなければ通り抜けるのは無理！)

よくよく目を凝らして確認すると彼女の姿は消えていた…。

その後、バイトの女子高生にその話をすると「霊魂ですよ！その人の想いが強いと、居ないはずの場所に霊魂だけが残ることがあるんです！」と聞かされた。

彼女は常々「ここしか働く所がない。」と言っていた。それでも、まわりに本気で気を使うことなど無い彼女はワガママ放題。まわりは困り果てていたが、彼女のような人間に味方する人達も居て、彼女にとってここは、天国のような場所だ。

場の中心になるのが好きな彼女にとって、自分が居ない時も自分の事を想っていてほしい…そんな想いが、霊魂を作り出したのかもしれない…。

背筋も凍る、色々な意味での恐怖体験であった。